国立精神・神経医療研究センター/小牧 宏文 先生  監修コラム①

SMAと共に暮らすための

「日常生活の工夫」ガイド


はじめに

脊髄性筋萎縮症(SMA)は、運動をつかさどる神経の働きが低下することで、筋力の低下を引き起こす疾患です。その影響は、手足の動かしづらさにとどまらず、姿勢の保持、呼吸、嚥下など、日常生活のさまざまな場面に及びます。

SMAの症状の現れ方や進行の程度は一人ひとり異なり、年齢や生活環境によっても、困りごとは大きく変わります。そのため、「SMAだからこうすべき」という一律の答えはありません。

近年は治療法の進歩、医療的ケア、福祉機器・支援制度の充実により、SMAと共に暮らしながら、学び、働き、社会とつながる選択肢が広がってきました。一方で、日々の生活の中では、小さな不便や迷いが積み重なり、不安を感じることも少なくありません。

本ガイドでは、SMAのある方やご家族が「今の生活を少しでも安心して続けるため」に役立つ、日常生活の工夫や考え方を整理しています。

※実際の対応については、症状や状況に応じて、必ず主治医や専門職と相談することを前提としています。


1.「無理をしない」ことを大切にする

SMAと共に暮らすうえで、まず意識したいのが「無理をしない」、
という考え方です。

できることがあっても、無理を重ねることで疲労が蓄積し、
体調の悪化や生活の質の低下につながることがあります。


日常生活では、

・疲れを感じたら早めに休む

・調子の良い日とそうでない日があることを前提に予定を立てる

・一人で抱え込まず、周囲に手助けを求める

といった工夫が大切です。


「自分でやらなければならない」「迷惑をかけてはいけない」と感じてしまうこともありますが、支援を受けることは
生活を長く続けるための前向きな選択肢でもあります。


2.身体の負担を減らす生活環境づくり

【住まいの工夫】

日常生活の多くの時間を過ごす住まいは、身体への負担を大きく左右します。

環境を整えることで、動作のしやすさや安全性が高まり、
疲労の軽減につながる場合があります。

具体的には、

・段差を減らす、手すりを設置する

・移動しやすい動線を意識した家具配置

・ベッドや椅子、机を身体に合った高さに調整する

といった工夫が考えられます。


住宅改修や福祉用具については、作業療法士や福祉用具専門員、自治体の相談窓口など、専門職の助言を受けながら検討することが重要です。


3.移動・外出を支える工夫

移動や外出は、生活の幅を広げ、社会とのつながりを保つために重要な要素です。一方で、体力や疲労への配慮が欠かせません。

車いすや電動車いす、移動補助具などを活用することで、移動の負担を軽減できる場合があります。また、外出前にバリアフリー情報やトイレ、休憩場所を確認しておくことで、不安を減らすことができます。

予定を詰め込みすぎず、「途中で休める余裕」を持つことも大切です。



4.食事・嚥下に関する工夫

嚥下や咀嚼に配慮が必要な場合、食事は安全性が最優先となります。
その一方で、食事は生活の楽しみの一つでもあります。

食材の形状や硬さの調整、姿勢を安定させた食事、とろみ剤の使用などにより、
安全に食事ができる環境を整えることが重要
です。

また、彩りや盛りつけを工夫することで、「食べる楽しさ」を保つこともできます。
医師や言語聴覚士、管理栄養士と相談しながら、その人に合った方法を見つけていくことが大切です。


5.呼吸や体調管理を意識した生活

SMAでは、呼吸機能への配慮が必要となる場合があります。
日常生活の中で体調の変化に気づくことが、安心につながります。

息切れ、疲労感、風邪症状など、普段と違う変化が見られた場合には、無理をせず、早めに医療機関へ相談することが重要です。

日頃から感染症予防を心がけることも、体調管理の一環となります。


6.学校・仕事・社会との関わり

SMAがあっても、その人らしい学び方や働き方を考えることができます。

学校や職場と必要な配慮を事前に共有し、合理的配慮や支援制度を活用することで、無理なく継続できる環境を整えることが可能です。

「できないこと」ではなく、「どうすればできるか」を一緒に考える姿勢が大切です


7.家族・周囲との関係づくり

SMAと共に暮らす日々は、ご本人だけでなく、家族や周囲の人との協力によって
支えられています。

家族自身の負担や不安にも目を向け、必要に応じて支援を受けること、同じ経験をもつ人とのつながりを持つことが、長く生活を続けるための支えになります。


おわりに

SMAと共に暮らす工夫に、ひとつの正解はありません。

医療、福祉、教育、職場、家族、社会とつながりながら、その人に合った生活の形を少しずつ見つけていくことが大切です。



監修:国立精神・神経医療研究センター/ TMC(トランスレーショナル・メディカルセンター)センター長、

病院臨床研究・教育研修部門長、脳神経小児科診療部長、筋疾患センター長 小牧 宏文 先生



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