脊髄性筋萎縮症(SMA)の生活支援:
家族・介助者が知っておきたい「ケアの基本」
はじめに
脊髄性筋萎縮症(SMA)のある方の生活は、ご本人の力だけで成り立つものではなく、家族や介助者、医療・福祉の支援によって支えられています。日常生活の中で行われるケアや見守りは、安心して暮らすための大切な基盤です。
一方で、ケアを担う家族や介助者は、「どこまで手伝えばよいのか」「自立を促した方がよいのか、それとも安全を優先すべきか」
といった迷いを抱えることも少なくありません。
SMAの症状や必要な支援は一人ひとり異なり、年齢や生活環境によっても状況は変わります。
そのため、ケアにおいても「これが正解」という一つの答えはありません。
本稿では、SMAのある方を支える家族・介助者が、日々の関わりの中で意識しておきたい「ケアの基本的な考え方」を、
いくつかの視点から整理します。
※具体的な医療的判断やケアについては、必ず主治医や専門職の指示・助言を前提としてください。
ケアにおいて最も大切な視点の一つが、
「支えること」と「本人の意思を尊重すること」のバランスです。
介助が必要な場面があっても、本人の気持ちや選択を無視してしまうと、
安心感や自尊心が損なわれてしまうことがあります。
たとえば、
・時間はかかっても「自分でやりたい」と思っていること
・その日の体調や気分によって「今日はお願いしたい」と感じていること
こうした気持ちは日々変化します。

介助者が先回りしてすべてを行うのではなく、
「どこまで手伝うか」「どこは見守るか」を本人と話し合いながら調整する姿勢が、信頼関係を築く基盤となります。

日々の生活介助では、「安全」と「快適さ」の両立が重要です。
移動、着替え、排泄、入浴など、身体に直接関わる介助では、
本人だけでなく介助者の負担にも配慮する必要があります。
・無理な姿勢や力任せの介助を避ける
・時間に余裕を持ち、急がせない
・本人の体調や疲労のサインに気づく
といった基本的な姿勢が、事故や体調悪化の予防につながります。
また、介助者自身の身体を守るためにも、正しい介助姿勢や福祉用具の活用が重要です。
「頑張りすぎない介助」が、長く続けるためのポイントとなります。
食事は、生命維持だけでなく、生活の楽しみの一つでもあります。
一方で、嚥下や咀嚼に配慮が必要な場合、食事介助は特に注意が必要な場面です。
・姿勢を安定させ、無理のない体勢で食べる
・本人のペースに合わせ、急がせない
・むせや疲労のサインに早めに気づく
「安全に食べること」を最優先としながらも、味や見た目、食事の雰囲気を大切にすることで、食事の時間を前向きなものにすることができます。

具体的な方法や注意点については、必ず医師や言語聴覚士、管理栄養士などの専門職の助言を受けることが重要です。

SMAのある方では、呼吸機能や体調の変化に注意が必要な場合があります。
日常生活の中での「ちょっとした変化」に気づくことが、
早めの対応につながります。
・息が荒い、呼吸が浅いように感じる
・いつもより疲れやすい、元気がない
・風邪症状が長引いている
こうした変化が見られた場合には、無理をさせず、
早めに医療機関へ相談することが大切です。
介助者が「様子を見る」判断に迷う場面では、専門職に相談できる体制を整えておくことが安心につながります。
家族や介助者が関わるケアには、「生活ケア」と「医療的ケア」があります。
医療的ケアについては、必ず医師の指示や研修を受けたうえで
行う必要があります。
無理に家族だけで対応しようとせず、訪問看護や医療機関、
支援サービスと連携することが、安全で継続可能なケアにつながります。
「できないことを任せる」のではなく、「専門職と役割分担する」という
視点が大切です。


ケアを担う家族や介助者は、知らず知らずのうちに
心身の負担を抱え込みやすくなります。
介助者自身の健康が保たれてこそ、安定したケアが可能になります。
・一人で抱え込まない
・休息やリフレッシュの時間を意識的に確保する
・相談できる人や場を持つ
支援制度やレスパイト(休息)サービスを利用することも、
決して「手抜き」ではなく、必要なケアの一部です。
SMAの生活支援は、家族や介助者だけで完結するものではありません。
医療、福祉、教育、地域の支援資源とつながることで、
負担の分散や安心感の向上につながります。
必要な支援を「頼ること」「相談すること」も、ケアの大切な要素です。
支援の輪を広げることで、本人と介助者の双方が、
より安心して生活を続けることができます。


呼吸器や電動車椅子を使用しているSMAのある方にとって、
日本で起こり得る地震や台風などの災害は、単なる「生活の不便」ではなく、
生命に直結するリスクとなる場合があります。
特に停電は、呼吸補助機器や吸引機、電動車椅子の使用に
大きな影響を及ぼします。
そのため、平時からの備えが非常に重要です。
・自治体と連携した個別避難計画の策定
・発電機やポータブル電源、予備バッテリーなどの電源確保
・停電時や緊急時に備えた主治医・医療機関との連絡体制(ホットライン)の確認
個別避難計画は、「どこへ」「誰と」「どのように」避難するのかを具体的に整理しておくものです。
家族だけで抱え込まず、自治体や医療機関、訪問看護、福祉サービス事業所と連携しながら準備を進めることが大切です。
また、電源確保については、必要な医療機器が何時間稼働するのかを把握し、
非常時に備えた現実的な対策を講じておくことが安心につながります。
災害はいつ起こるか分かりません。しかし、「備えている」という事実そのものが、日常の安心感を支えます。
SMAのある方の安全を守るために、医療的視点を踏まえた防災対策を、日頃から意識しておくことが重要です。
おわりに
SMAのある方を支えるケアには、決まった形や唯一の正解はありません。
本人の状態や気持ちに寄り添いながら、家族・介助者・専門職が協力し、その時々に合った支え方を見つけていくことが大切です。
監修:国立精神・神経医療研究センター/ TMC(トランスレーショナル・メディカルセンター)センター長、
脳神経小児科診療部長 小牧 宏文 先生
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