脊髄性筋萎縮症 国立精神・神経医療研究センター/小牧 宏文 先生インタビュー

小牧 宏文(こまき  ひろふみ)先生

1990年 熊本大学医学部卒業
1990年 熊本大学医学部附属病院小児科
1996年 国立精神・神経センター武蔵病院小児神経科レジデント
2001年 同・神経研究所疾病研究第二部流動研究員
2003年 同・小児神経科医員
2012年 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 病院小児神経診療部 医長
2015年 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 病院臨床研究推進部 部長
2019年 国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナル・メディカルセンター センター長
2021年 国立精神・神経医療研究センター 病院臨床研究・教育研修部門 部門長(併任)
2023年 国立精神・神経医療研究センター 病院脳神経小児科診療部 部長(併任)

「発症前に見つけ、できるだけ早く治療することが未来を変える」

〜新生児マススクリーニングが切り開く、SMA医療の新時代〜

脊髄性筋萎縮症(SMA)は、運動神経が徐々に失われていくことで、

筋力低下や呼吸障害などを引き起こす希少難病です。かつては「有効な治療法がない病気」とされ、

多くの患者さんやご家族が、将来への大きな不安を抱えながら生活してきました。


しかし近年、SMA医療は大きな転換期を迎えています。

複数の治療薬が登場したことで、病気の進行抑制や運動機能の改善が期待できるようになり、

さらに新生児マススクリーニングの導入によって、

「症状が出る前に診断し、早期に治療を開始する」

という新たな医療の形が現実のものとなりつつあります。


これまでのSMA医療では、筋力低下や発達の遅れなど、

症状が現れてから診断されるケースが一般的でした。

しかし現在は、「発症前に診断し、できるだけ早く治療を始めることで、

その後の人生を大きく変えられる可能性がある」と考えられる時代へと変わっています。


一方で、早期診断・早期治療が可能になったことで、新たな課題も見えてきました。

診断直後のご家族への心理的支援、地域差のある医療体制、

長期的な経過観察、社会参加を支える環境整備――。


SMA医療は今、「命を守る医療」から、「その人らしい人生を支える医療」へと広がり始めています。


今回は、長年にわたりSMA診療と研究の第一線で取り組まれてきた、

国立精神・神経医療研究センターの小牧宏文先生に、

新生児マススクリーニングの意義、早期治療がもたらす変化、患者さんやご家族への支援、

そしてこれからのSMA医療についてお話を伺いました。

インタビュー目次

〇「発症前に見つける」ことの意味

〇SMA治療は「時間との勝負」

〇地域差と、新しい医療体制への課題 🔒

〇「治療がある」だけでは終わらない 🔒

〇SMAとともに生きる日常 🔒

〇社会参加に必要なのは「合理的配慮」 🔒

〇ご家族へのサポートで大切にしていること 🔒

〇「できることを積み重ねてほしい」 🔒


「発症前に見つける」ことの意味

小牧先生は、新生児マススクリーニングの最大の意義について、「発症前に診断し、できるだけ早く治療につなげること」だと話します。


「SMAでは、症状が出た時点ですでに運動神経の細胞が失われ始めています。だからこそ、症状が出る前に見つけ、できるだけ早く治療することが、その後の治療効果を大きく左右します」


SMAは、脳から筋肉へ指令を送る“運動神経細胞”が徐々に失われていく病気です。


一度失われた運動神経細胞を完全に元に戻すことは難しいため、「どれだけ早く介入できるか」が非常に重要になります。


これまでのSMA医療では、赤ちゃんの筋力低下や首のすわりの遅れなど、症状が現れてから診断に至るケースが一般的でした。

しかしその頃には、すでに運動神経へのダメージが進行している場合も少なくありません。

そのため近年では、「症状が出る前に発見し、発症前から治療を開始する」という考え方が世界的に広がっています。


実際に、早期治療によって、これまでであれば重い運動障害が想定されていた子どもたちが、歩行をしたり、健常児に近い発達を示したりするケースも報告されるようになってきました。


小牧先生は、「SMAほど、新生児マススクリーニングの意義が大きい疾患は少ないのではないか」と語ります。


「以前のSMAは、人工呼吸管理が必要になるなど、生命維持そのものが大きな課題となる病気でした。
しかし今は、早期発見・早期治療によって、将来の可能性が大きく変わる時代になっています」


こうした背景から、現在では多くの国や地域でSMAが新生児マススクリーニングの対象疾患となっています。

日本でも全国的な導入に向けた取り組みが進んでおり、自治体ごとの実証事業や体制整備が進められています。


かつては、一部地域で保護者が希望して追加費用を支払う「オプショナルスクリーニング」として実施されていましたが、現在は公的な取り組みとして広げていこうという流れが進んでいます。


小牧先生によると、特に治療が必要と判断された場合には、「できるだけ早く治療を開始すること」が重要視されており、生後2週間以内での治療開始を目指した体制づくりが全国で進められているといいます。

ただし、その実現には多くの課題もあります。


SMAは希少疾患であり、地域によっては数年に1人出るかどうかというケースもあります。
そのため、いつ発生するかわからない患者さんに対して、常に迅速かつ適切に対応できる体制を維持する必要があります。


さらに、診断直後のご家族は、大きな混乱や不安の中にいます。

「突然、難病であることを告げられ、その直後に早期治療の判断を求められる」という状況は、これまでの医療にはあまりなかった新しい課題でもあります。


「もちろん、できるだけ早い治療が望ましいのですが、“急がなければいけない”という状況の中で、ご家族への丁寧な説明や心理的サポートも非常に重要になります」

そのため、医師だけではなく、遺伝カウンセラーや看護師、多職種が連携しながら、ご家族を支える体制づくりも重要になっているといいます。


SMA医療は今、“治療できる時代”へと大きく変化しています。

そして新生児マススクリーニングは、その未来を支える大きな鍵となっています。

SMA治療は「時間との勝負」

SMAは、SMN1遺伝子の異常によって起こる疾患ですが、症状の重さや発症時期には、「SMN2」という遺伝子のコピー数が大きく関係しています。


SMN2は、SMN1の働きを一部補う“バックアップ”のような役割を持つ遺伝子で、コピー数が多いほど比較的症状が軽くなる傾向があることが知られています。


小牧先生によると、SMN2が2コピーまたは3コピーの場合は、国際的にも「できるだけ早期に治療を開始すべき」とされています。


「症状が出る前、あるいはできるだけ早い段階で治療を開始することで、その後の運動機能や発達に大きな差が出ることが分かってきています」


一方で、SMN2が4コピー以上の場合は、発症時期が比較的遅いケースもあり、「全例にすぐ治療を行うべきか」については慎重な議論が続いています。

ただ、小牧先生が強調されたのは、「SMA治療は時間との勝負である」という点でした。


SMAでは、症状が目に見えて現れる前から神経細胞への障害が始まっています。

つまり、“待つこと”そのものが、機能低下につながる可能性があります。

そのため、新生児マススクリーニングで陽性となった場合には、確定診断を進めながら、並行して治療開始について検討していく必要があります。


しかしその一方で、診断直後のご家族は大きな混乱の中にいます。

突然、“難病”という言葉を告げられ、病気について十分理解しきれないまま、短期間で治療の意思決定を求められる――。

これは、これまでの医療にはあまりなかった新しい課題でもあります。


「もちろん、早期治療はとても重要です。ただ、ご家族の理解や納得も同じくらい大切です。焦りだけが先行しないよう、丁寧に支えていく必要があります」


そのため現在のSMA医療では、医師だけでなく、看護師、遺伝カウンセラー、ソーシャルワーカーなど、多職種が連携しながらご家族を支える体制づくりが重要になっています。................




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