「子どもの生活リズムが乱れやすい」「医療的ケアや希少疾患の対応に悩んでいる」
そんな保護者の方からの質問にお応えするため、かんしん広場では全国のご家族から
『患者さんご自身やご家族が抱える生活全般の課題』に関する質問を募集しました。
本記事では、国立成育医療研究センターの窪田 満先生に、
生活リズムの整え方や疲労の工夫、医療機関との関わり方など、家庭で実践できる具体的な対応についてお答えいただいた内容をまとめています。
前編では「日常生活の工夫や医療機関との関わり」に関する質問を取り上げています。
窪田先生のご紹介

窪田 満(くぼた みつる)先生
窪田 満(くぼた みつる)先生は、国立成育医療研究センター 総合診療部 統括部長(チャイルドライフサービス室長)を務める小児科医です。専門は小児総合診療です。もちろん、気管支喘息や胃腸炎などの日常的によくかかる疾患も診ますし、高度医療の場で呼吸管理などのサポートもしています。医療的ケア児の在宅医療への橋渡しや、こどもの死に関する問題、新しい健診やマススクリーニングの開発など、様々なことを行っています。
その中で一番熱心に取り組んでいるのが成人移行支援です。先天性代謝異常症や小児消化器疾患は昔から専門にしています。
先生は「どのような状況にいる子どもであっても、笑顔でいられるように、患者とその家族を中心とした温かい医療を提供する」ことを目標に掲げ、多職種連携のチーム医療を積極的に推進されています。
日本小児科医会「子どもの心」相談医や、専門誌の編集委員長なども務め、学会活動や論文活動を通じて医療現場の課題解決に取り組んでいます。
【所属・役職】国立成育医療研究センター 総合診療部 統括部長チャイルドライフサービス室 室長
【専門分野】小児科・小児総合診療(成人移行支援、小児在宅医療など)・先天性代謝異常症・マススクリーニング・小児消化器疾患
【著書】「最新!0~6才病気&ホームケア新百科 ベネッセ・ムック たまひよブックス ひよこクラブ特別編集」・「パパ・ママが自宅でできる 子どもの病気とはじめてのホームケア」・「スキルアップ!小児の総合診療―セイイクノスキル」・「慢性疾患や特別なケアが必要な子どもたちへの支援ガイドー医療・保育・学校のためのクイックリファレンス−」・「外来で見つける先天代謝異常症 シマウマ診断の勧め」
生活リズムの整え方|5歳の男の子 脳性麻痺の子どもへの家庭での工夫
A:既に実行されていると思いますが、十分な休養が重要です。
入浴はその一つで、ご家族で一緒に、ぬるめのお湯にゆっくり入ることでリラックスできます。
昼寝も重要です。帰宅後に毎日、お昼寝タイムを作ることもリズム作りの役に立ちます。食事を含め、一定のペースを乱さないことがコツだと思います。
お風呂や昼寝の習慣は、単に休養としての効果だけでなく、生活リズムの安定にもつながります。
お風呂は筋肉の緊張を緩めるため、身体がリラックスしやすくなり、その後の就寝にも良い影響を与えます。
昼寝の時間は夕食や夜の就寝に影響しない程度の短時間にすることで、子どもに無理のない形で取り入れられます。
また、食事や睡眠の時間など、日々のペースを一定にすることは、子ども自身が生活のリズムを理解し、園での活動や家庭での学びにスムーズに取り組める基盤になります。
実際に、こうした習慣は患者家族の皆様から直接教えていただきました。
多くのご家族の御経験に基づく方法で、是非取り入れてみて下さい。

希少疾患の子どもと医療機関との関わり方|8歳の男の子 KIF1A関連神経疾患
A:kif1a関連神経疾患は非常に稀な疾患で、末梢神経症状など、対応も特殊です。
そのため、レスパイト施設を含め、主治医の先生と相談することが何よりも重要です。
実は、稀な疾患ではない場合は、保護者が探すのではなく、医療的ケア児支援センターや相談支援専門員に相談してレスパイト先を決めることがお勧めなのですが、特殊な対応が必要な場合は、主治医抜きでは決められないと思います。
この疾患は国内でも非常に症例が少なく、一般的な医療機関では十分な知識や対応が難しい場合があります。
そのため、施設選びやケア内容の判断は、主治医を中心としたチームで慎重に行うことが重要です。
前述の医療的ケア児支援センターや相談支援専門員の力を借りながら、最適な環境を整えることが、子どもにとって安心で安全な生活につながります。
▼レスパイトとは?
レスパイトで受けられるサービスを紹介
HNRNPH2の子どもと医療機関での情報共有の工夫|5歳の女の子
A:HNRNP疾患は非常にまれで、一般小児科医はほとんど知らないと思います。
ただ、知らなければ勉強すればいいだけで、医師にはその能力があります。ですから、「知らない」というだけでその医師に不信感を持たないでいただければと思います。
もちろん、その勉強をしない、話も聞いてくれない医師は残念ながら、担当医にはなれないと思います。そして知識がないと、どういう言葉が患者家族を傷つけるのかが分からないのも事実です。
説明の資料として、患者会の資料や同じ疾患を持つ家族からの情報などは非常に有効だと思います。
複数診療科への情報共有は、基本的には医師同士で行うべきものです。そのためには、キーになる総合的な視点を持った医師や看護師が必要です。
ついつい専門医を求めがちですが、総合医や看護師が間に入ることによって、コミュニケーションがスムーズになります。
医療連携は親の仕事ではなく、医療者の仕事ですので、総合医や親身になってくれる看護師を見つけて、頼っていただければと思います。できれば専門医と同じ病院の医療者が望ましいです。ご家族の側に立つ医療者が重要で、お一人で頑張る必要はありません。
成人期への移行に関しては、こういった希少疾患は、小児科医から離れない方が良いと思います。
入院先の成人医療機関を探す必要はありますし、直接小児科医が診る機会は減るかもしれませんが、小児科医がコーディネーター、コンサルタントとして関わり続ける必要があります。
HNRNPH2のような希少疾患では、家族が日々の症状や体調の変化をスマホやノートに記録しておくことが、医療者との情報共有を補助する有効な手段です。
診察時に整理された情報を提示することで、医師が短時間で理解しやすくなり、診療の質向上につながります。
さらに、患者会や同じ疾患を持つ家族との交流は、医療情報の補完だけでなく、心理的な支えとしても役立ちます。成人期への移行に際しては、過去の医療情報や希少疾患の知識を持つ小児科医が継続して関わることで、安全かつスムーズな診療が可能になります。
成人期への移行準備|埼玉在住15歳の男の子 先天性心疾患(ファロー四徴症)
A:何歳でも構いません。
大学進学や就職の機会に移行する事も多いです。
後述しますが、何よりも重要なのは、本人がしっかりと自分の健康を理解することです。
A:移行の判断基準として最も重要なのは、「本人の自己管理能力」です。ヘルスリテラシーの獲得と言います。
保護者には、そのための努力が必要です。たとえば、もう15歳ですので、診察室に入ったら自分で医師と会話する(保護者は話さないという約束を医師としておく)、受診のスケジュール管理、運動制限を含む体調管理も自分で行うなどの教育をしてください。

A:Fallot四徴症の場合、循環器内科の成人先天性心疾患外来がお勧めです。
埼玉県内であれば、複数の病院が開設しておりますので、インターネットで調べてみて下さい。
そして最終的には、小児科の主治医と相談して、どこにするか決める事になります。
A:成人診療科へ移行した後のトラブルは、親ではなく、本人が解決すべきです。
親が一緒に受診することの方が問題です。自分のことをきちんとお話しし、様々な問題を自分で解決できるように育てましょう。情報の引き継ぎ不足は患者自身が補えばいいのです。それができるように育てることが、親が事前に行うべき最も重要なことです。
学校生活管理指導表を活用して、自分の運動負荷や許容範囲を理解させることで、日常生活での自己管理能力をさらに高めることができます。
また、移行期医療支援外来を活用すれば、医療者と一緒に移行準備の学習や診療シミュレーションができ、成人診療科で一人で受診する際の心構えや知識を身につけやすくなります。成人先天性心疾患外来は全国的に整備されており、地域の基幹病院や専門センターと連携することで、情報引き継ぎ不足やフォローの空白期間によるリスクを最小限に抑えられます。
もしもダウン症などの知的な障害が合併している場合は、別の御質問の回答も参考にして下さい。
A:まず、必要なのは在宅医と訪問看護師の導入の強化です。相談支援専門員の方に相談し、親が休めない状況を改善して下さい。
病気やケアに詳しい必要はありません。目の前の患者さんの状況を正確に把握して適切に対応できればいいのです。
親だけに頼らない体制作りが最も求められます。
成人になった後も、在宅医に繋がっていると、安心してサポートが受けられます。
ここで言う在宅医は「強化型在宅療養支援診療所」の指定を受けているところです。そこであれば、24時間対応可能となります。
まずは、そこと繋がるのが、自宅や地域で安心して生きていくために必要な事です。今すぐにでも体制作りを始めて下さい。
地域のリソースを可能な限り活用することが、次に繋がります。小児科医である必要はありません。
在宅医療の体制を強化する際は、複数の訪問看護ステーションを活用し、毎日誰かが訪問できる体制を整えることが望ましいです。
痰の吸引や胃ろう管理など、医療ケアの一部を看護師に任せることで、親の負担を減らし、家族の生活の質を向上させることができます。
A:社会との交流は、どんどん行って下さい。感染症が気になるのはよくわかりますが、それよりも冒険をしてみましょう。
これも、患者会を含め、地域のリソースを十分に活用すればできるはずです。
医療的な安全を考えたらきりがありません。冒険してみることは、患者さんにとってだけでなく、ご家族にとっても、生活を見直すきっかけになると思います。
さらに、患者会や自治体のイベントに参加することで、他の家族や地域とのつながりを得られ、心理的支えや情報交換にも役立ちます。
地域での認知が災害時の支援や緊急時対応にもつながるため、医療的ケア児支援センターなどの公的支援制度を積極的に活用することも重要です。
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