子どもの自立を育むトランジション外来|子どもからおとなへ安心して医療をつなぐために

2026/3/6 公開

はじめに

国立成育医療研究センターは、小児・周産期・女性医療を担うナショナルセンターです。

当センターには、小児期に発症した慢性疾患を抱えながら長く通院されている患者さんが多くいらっしゃいます。

幼い頃から通い慣れた医療機関で治療を続けてこられた患者さんも、やがて成人期を迎えると、大人の医療機関へ移行する時期が訪れます。


しかし、慣れ親しんだ医療機関を離れることには、さまざまな不安が伴います。

「新しい医師とうまくコミュニケーションがとれるだろうか」「これまでと同じように治療を継続できるだろうか」

といった心配を感じる方も少なくありません。


またこれまでの小児医療では、診察の際に医師から「最近の様子はどうですか」「今後の治療をどうしていきましょうか」

といった問いかけに対し、ご家族、特にお母さまが中心となって対応されることが多くあったのではないでしょうか。

しかし、成人医療では、ご自身が主体となって病気や治療について理解し、医療者と相談しながら意思決定していくことが求められます。

そのために必要な力を少しずつ育み、安心して成人医療機関へ移行できるよう準備を整えていく場が「トランジション外来」です。


トランジション外来とは

当センターは2015年9月にトランジション外来を開設し、これまで1,000名を超える患者さんと面談を行ってきました。
トランジション外来では、患者さん自身が、将来自分の健康を自分で守れるようになるために、次のような支援を行っています。

  • 自分で知り自分で考え行動する力を育む
  • こころの成長を支える
  • 親子関係の成長を支える
  • 将来の生活を見据えた準備を支える
  • 自分にあった医療機関を一緒に探す
が含まれます。


開設当初「診療を受ける場所」が強調され成人移行支援が「転院促進」であると誤解を受けることもありましたが、
私たちが一貫して大切にしてきたことは、患者さん自身が健康について理解し、主体的に向き合えるようになることです。


「ヘルスリテラシー」を育むということ

トランジション外来の中心にある考え方が「ヘルスリテラシー獲得」です。

ヘルスリテラシーとは、「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、能力」のことを言います。


その力を育むためには次のような視点が大切です。

  • 自分の病名を知る
  • 病気の仕組みを理解する
  • なぜ薬や検査が必要か理解する
  • 症状や治療に伴い症状、そして自分の気持ちに気づく
  • 自分の体調や気持ちを自分でコントロールできるようになる 等


これらは将来大人になったときに、自分の健康を自分で守るための大切な土台になります。


トランジション外来での面談

1) 面談の進め方

トランジション外来での介入は診療科の医師からの依頼を受けて始まります。
自立した受診行動がとれる(自立が見込める)患者・家族については看護師が面談し、自立した受診行動の自立が難しい患者さん・家族についてはトランジションチームの医療ソーシャルワーカ(以下MSW)が担当します。

しかし実際は、受診行動の自立は難しいですが、患者自身の知的発達段階に合わせた自立支援が必要なケースもあり、MSWと看護師が一緒に介入しているケースもあります。


当センターにはトランジションチームがあり、総合診療部医師、産科医師、こころの診療科医師、外来看護師、外来看護師長、医療連携室室長、MSWで構成され、チームで患者さん一人ひとりにあった支援を行っています。


2) 面談時間と面談場所

具体的には月曜日から金曜日の9時から16時の診療の待ち時間を活用し、面談をしています

面談は診察室で行い、子供たちが学べる絵本や図鑑等の教材も用意しています。


3) 成人移行支援プログラム

年齢や発達段階に応じたヘルスリテラシー獲得を育むために、当センターでは独自の成育サポートプログラムを用意しています。

成人患者としてふさわしいヘルスリテラシー獲得に向けた準備を目的とした「自分の将来を考えてみよう!」プロジェクトでは、
28項目のプログラム内容があり、その中から自分の知りたいこと、考えてみたいことを選択してもらいます。
患者さんの興味関心があるプログラムから一緒に取り組んでいます。


成人移行支援プロジェクト「自分の将来を考えてみよう!プロジェクト」プログラム28項目

1 自分が知りたい・考えてみたいことに気づくこと

2 病気のこと

3 からだの仕組み

4 自分の治療のこと

5 検査のこと

6 薬のこと

7 栄養管理

8 活動・運動・休息に関すること

9 喫煙・飲酒に関すること

10 感染予防

11 自分の知りたい情報を調べる方法(病気・薬・医療制度の理解)

12 これまでの病歴の振り返り

13 マイサマリーの作成

14 体調が悪くなった時の対応

15 受診行動の自立

16 自己管理について

17 学校や職場における人間関係

18 恋愛・結婚に関すること

19 避妊・性感染症

20 妊娠・出産後の自分の病気への影響

21 医療費・医療制度

22 ストレスマネジメント

23 家族・親子関係

24 進学支援

25 就労支援

26 将来について(ライフプラン)

27 今後の自分に必要や医療を考えてみること

28 成人医療施設の受診に向けた準備


成人移行支援のプログラムを通して、患者さんからは次のような声がよく聞かれます。

  • 「医師から自分の病気についてもう一度説明してほしい」
  • 「今後合併症が起こるのか事前に知っておきたい」
  • 「将来病気が結婚や妊娠にどのような影響を与えるのか知りたい」等

こうした不安や疑問は患者さんが大人へと成長していく過程でとても自然なものです。


トランジション外来看護師は先ず患者さんの不安や気持ちを丁寧に聞き取ります。
そのうえで、どのようなことを医師に確認したいのか、どのように質問したらよいか等情報を一緒に整理し、患者さん自らが医師に質問できるようにサポートします。自分の病気について知りたいことを自分の言葉で医師に伝えることは、自分の健康を自分で守るための大切な力につながります。


私たちは、患者さんが安心して質問できるようになることも、おとなへの大切な一歩としてサポートしています。


診療連携の支援調整

―安心して次の医療機関につながるためにー

おとなの成人医療機関への移行は、多くの患者さんにとって不安を伴うものです。
一方で小児病院では成人期に発症する病気への対応が難しい場合があり、将来を見据えた医療機関への移行はとても大切になります。
これから先、長い人生の中で通院する可能性のある病院だからこそ、患者さん自身が納得して次の医療機関を選択できるように私たちは丁寧に支援しています。


移行の内容は患者さんによってさまざまです。

  • 複数の診療科を移行する必要がある
  • 医療ケア物品の内容や量を調整する必要がある
  • 成人病院に依頼しても受け入れが難しい場合がある 等


こうした一人ひとり異なる状況に合わせて、医師やMSWと連携しながらその方にあった移行先を一緒に考えていきます。


ここで皆さんに知っておいていただきたいことは、患者さんもご家族も元気な時に移行の話を始めておくことがとても大切だということです。
体調が安定している時期であれば、落ち着いて次の医療機関について考えることができます。
これまでご家族の体調不良等で話し合いが急に進められなくケースも実際にありました。だからこそ、「みんなが元気な時に少しずつ準備を進めておく」これが安心して移行するためのポイントだと思います。


おわりに

成育医療研究センターには子どもの自立を育むトランジション外来があります。

小児期には子どもと家族に寄り添い、伴走者として疾患理解や自己管理の基盤を築いていきます。
思春期以降は、支援の手を少しずつ引き、本人が自らの足で歩めるよう支えます。
そして最終的には必要な時にはいつでも戻れる存在でありながら、遠くからその歩みを見守りたいと考えています。

 

移行期医療とは、診療科を移すことではなく、子どもたちが生涯にわたり主体的に医療と向き合い続けられる力を育むプロセスです。
わたしたちは患者さんとご家族とともにそのプロセスをこれからも歩んでいきます。



この記事の執筆者紹介

 

紙屋 千絵 看護師

国立研究開発法人 

国立成育医療研究センター

看護部 外来副看護師長


これまでNICU、小児病棟、外来など、様々な部門で子どもとその家族に関わってきました。

現在移行期支援外来を担当し3年目になります。

移行期支援は子どもたちが自分の健康や生活について主体的に考え、自立していく力を育むための外来です。

お子さまを取り巻く皆さまと共に、よりよい自立へ向けた支援ができるよう、今後も務めてまいります。