働き方の工夫や活用できる制度をわかりやすく解説
てんかん治療のために、「今のまま仕事は続けられるか」「通院と仕事は両立できるか」と不安を抱えている方がいるかもしれません。てんかんは服薬で発作をコントロールできることが多く、適切な自己管理や職場の理解があれば、仕事との両立は十分に可能です。
この記事では、てんかんのある方が働くうえで直面しやすい困りごとと、症状に合わせた働き方の工夫をわかりやすく解説します。職場にお願いしたい合理的配慮の具体例や、万が一、発作が起きたときの備え、休職・復職に関するポイントについてもまとめました。一人で悩まず、自分に合った無理のない働き方を見つけるための参考にしてください。

てんかんとは、発作をくりかえし起こす脳の病気です。脳の神経細胞は、基本的に電気活動を用いて情報伝達をしています。一時的に症状が激しくあらわれるてんかん発作の原因は、脳の神経細胞の活動が突然乱れ過剰になることです。
てんかんの症状は、種類や脳のどの部位から起こるかによって多彩であり、重症度も、小児期に自然に治る良性てんかんから、薬で発作を抑えられず手術が必要となるもの、繰り返す発作によって脳機能障害を起こす難治性てんかんまでさまざまです。
60~70%は抗てんかん薬の服用で発作は治まり、大半は支障なく通常の社会生活を送ることができます。
【参考文献】
てんかんの方が治療をしながら働くときは、治療や症状の特徴から、以下のような困りごとが起こります。
● 定期通院が必要である
● 発作による事故やケガの不安がある
● 服薬の副作用による眠気、だるさ、集中力の低下がある
● 睡眠不足や過労が発作の誘発要因になるため、シフト勤務や長時間残業への対応ができないことがある
● 一定期間(原則2年間)発作がないなどの条件を満たさない場合、自動車の運転が禁止されている
症状や重症度によっては、向いていない仕事や制限のある仕事もあります。就労については、自身だけで判断せず、主治医へ相談しましょう。
【参考文献】
静岡てんかん・神経医療センター情報センター|Q&A治療の方法について教えてください
静岡てんかん・神経医療センター情報センター|Q&A運転免許はとれますか?
まず、主治医と相談のうえ、職場を決めるようにしましょう。就職・転職のタイミングはもちろん、異動などで環境が変わる際にも事前に相談しておくと、医学的な見地からの適切なサポートやアドバイスを受けやすくなります。
ここでは、てんかんに特有の困りごと別の働き方の工夫と対策をご紹介します。
● 定期通院が必要である
勤務先に制度がある場合は、半休・時間単位の年次有給休暇の活用する方法があります。また、医療機関によっては勤務先が休みの日に治療を受けられる可能性があるので、主治医に相談してみましょう。
● 発作による事故やケガの不安がある
服薬を継続し、規則正しい生活で発作を防ぎましょう。発作ノートや体調管理ノート(体調・睡眠時間・服薬)で簡単なメモをつけ、自身で管理するようにします。精神障害者保健福祉手帳を取得している場合などには、障害者雇用枠も選択肢になります。
障害者雇用枠とは、障害者雇用促進法に基づき、企業などが一定割合以上の障害者を雇う義務があることによる求人のことです。
● 服薬の副作用による眠気、だるさ、集中力の低下がある
疲れを感じた際や服薬後に眠気が出た際に、こまめに休憩が取れる環境(休憩場所)を確保しておきましょう。後述の「合理的配慮」の項目でも触れますが、「こういったときには休憩させて欲しい」といったことを、あらかじめ職場へ伝えておきましょう。もし適切な休憩室がない場合は、どこで休めばよいかも含めて上司に相談しておくと安心して業務に取り組めます。
● 睡眠不足や過労が発作の誘発要因になるため、シフト勤務や長時間残業への対応ができないことがある
睡眠不足や疲労は発作を誘発しやすいため、生活リズムを一定に保てる働き方が望ましいです。睡眠不足が発作の誘因となる場合には、夜勤や交代制勤務の調整について、主治医や職場に相談しましょう。また、通勤による体力的な負担を減らすために、時差出勤や在宅勤務を活用できないか検討してもらう方法もあります。
● てんかんの場合、一定期間(原則2年間)発作がないなどの条件を満たさないと運転が禁止されているため、通勤や業務での運転は主治医の許可と法令の遵守が必須である
運転に関しては、主治医に相談しましょう。許可されない場合には、通勤や業務で運転の必要のない職場を選ぶことになります。
2013年(平成25年)4月より障害者総合支援法の対象に「難病等」が加わりました。てんかん症候群の一部に難病(指定難病)に含まれるものがあります。難病に該当するてんかんとしてあげられるのは、ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群、ウエスト症候群などです。
また、てんかんは神経疾患(脳の疾患)ですが、障害者福祉制度上は精神障害の枠組みで支援の対象となります。
さらに、2016年(平成28年)4月より、改正障害者雇用促進法が施行されました。雇用分野では障害者に対する差別は禁止され、募集・採用時や採用後に、障害の特性や状況に応じた合理的配慮を提供することが事業主に求められています。合理的配慮とは、障害のある人が生活するうえで支障になる困りごとなどを取り除くためにする個別の調整や変更のことです。そのため、雇用側に過重な負担とならない範囲で、障害の特性や状況に応じた合理的配慮を行うことが求められています。あらかじめ職場に困りごとについて相談しておくと、適切な配慮をしてもらえます。
てんかんの場合の合理的配慮の具体例は、以下のとおりです。
● 例1.「定期的な受診が必要なため、通院日には半休を取りたい」
● 例2.「睡眠不足や過労を防ぐため、長時間残業や夜勤は免除して欲しい。疲れを感じたときや服薬後に眠気が出たときに、休憩させて欲しい」
● 例3.「安全確保のため、高所作業や機械操作、重量物運搬を業務から外して欲しい」
● 例4.「万が一、発作が起きた際の対応、たとえば、『発作が5分以上続く』『回復しないまま発作を繰り返す』といった救急車を呼ぶ基準や、休ませてもらう場所など主治医に確認した内容を事前に共有するので、協力して欲しい」
会社側へ合理的配慮を申し出るときには、できないことだけでなく、「こういう配慮があれば業務ができる」と伝えましょう。また、自分でうまく伝えられるか不安なときには、主治医に「就業に関する意見書(診断書)を書いてもらえないか」と相談し、それを根拠にして説明する方法もあります。
【参考文献】
厚生労働省|障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の概要
厚生労働省精神・発達障害者しごとサポーター養成講座|精神障害(精神疾患)の特性(代表例)
国立精神・神経医療研究センターNCNP病院|第24回 発作時の対応について
万が一、職場で発作が起きた際に備え、周囲の協力体制を整えておくことが大切です。以下の3つのポイントを、事前に職場へ伝えておきましょう。
● 発作の症状と対応
自分の発作が「ボーッとする」「倒れてけいれんする」などどういった種類なのかと、通常何分で治まるかを伝えます。「無理に押さえつけず、危険なものを遠ざけて見守ってほしい」と具体的な対応をお願いしましょう。
● 発作後に休める場所の確保
発作後、意識が回復してもしばらく朦朧とすることがあります。横になって休める場所を事前に決めておきましょう。
● 救急要請の基準
「5分以上けいれんが続いた」「意識が戻らないまま次の発作が起きた」「転倒してケガをした」など、救急車を呼ぶ基準を職場に伝えておきましょう。
過労やストレスで発作が悪化した場合は、無理を続けず休職を検討しましょう。会社員などが加入する健康保険では、業務外の病気やけがのため仕事を休み一定の支給要件を満たす場合に、傷病手当金を受給できることがあります。傷病手当金は公的医療保険の制度であるため、申請手続きや支給要件については職場の総務・人事担当者へ相談しましょう。
復職する際は、主治医や産業医と相談しながら慎重に進めることが大切です。短時間勤務から始めたり、身体的負担の少ない業務へ配置転換してもらったりする方法もあります。また、身近な地域にある障害者就業・生活支援センターなどの専門機関を活用して、生活面と就労面の一体的なサポートを受ける方法もあります。
てんかんの治療と仕事を両立するための利用できる公的制度には、さまざまなものがあります。制度によって申請先や相談窓口が異なるため、利用を検討する際はそれぞれの担当窓口に確認しましょう。
治療と仕事を両立するための公的な制度には、以下のものがあります。
● 自立支援医療(精神通院医療)
てんかんについて継続的な通院治療が必要な場合、その通院医療費などは、自立支援医療(精神通院医療)の対象となる場合があります。対象となる医療では、原則として自己負担が1割となり、所得などに応じて月ごとの負担上限額が設けられています。また、ドラベ症候群、レノックス・ガストー症候群など一部のてんかん症候群は指定難病に該当します。一定の要件を満たす場合には、指定難病の医療費助成を利用できることがあります。利用できる制度や自己負担額は、治療内容や所得、加入している医療保険などによって異なるため、自治体の担当窓口や医療機関に確認しましょう。
一方、てんかんの精密検査や手術などで入院する場合や、てんかんとは無関係な病気・ケガで医療費が高額になった場合にも、健康保険の高額療養費制度の適用があり、負担額は大きく減らせます。保険証と該当する制度の受給者証を一緒に提示すると、最も負担の少ない金額で計算してもらえる規定です。
● 精神障害者保健福祉手帳
障害の程度によって、精神障害者保健福祉手帳を取得できる場合があります。手帳があると障害者枠での就労が可能になるほか、所得税などの税金控除、一部の公共交通機関の運賃割引などで活用できます。(※割引対象となる交通機関は事業者によって異なります)
精神障害者保健福祉手帳の申請には、精神保健指定医その他精神障害の診断または治療に従事する医師の診断書・意見書、障害のある方の写真が必要です。手続方法は、居住地の市町村担当窓口にお問い合わせください。
● 障害年金
障害年金は、年金加入中の病気やケガによって生活や仕事に支障をきたすようになった場合に、現役で働いていても請求できる年金制度です。受給には、疾患ごとに認定基準があるほか、初診日や保険料の納付状況などについても一定の要件があります。
受給したい場合には、自分が対象になりそうか、主治医に病状について
相談するとともに、年金事務所などで受給要件を確認してみましょう。
大切なのは、悩みや困りごとを一人で抱え込まないことです。相談窓口は数多くあり、相談内容に応じて、適切な支援機関を案内してもらえることもあります。自分がもっともアクセスしやすい窓口で相談しましょう。
また、相談すべきタイミングの目安もあります。目安の時期に相談すると、事前にアドバイスをもらえたり、適切なサポートを受けられたりして、結果的に自分だけで悩むことも少なくなりやすいでしょう。相談すべきタイミングは、以下のとおりです。
● 就職活動を始める
● 今の働き方に限界を感じた
● 職場に病気をどう伝えるか悩んでいるなど
身近な相談先としては、主治医や会社があります。悩みがあったら、まず、主治医に相談したり、配慮してもらえる制度がないか会社の上司や人事担当者に確認したりすることから始めてみましょう。
てんかんに特化した相談先には、日本てんかん協会の相談事業があります。医療関係者による専門相談、および同じ立場(てんかんのある人やその家族)の方によるピア相談が受けられます。誰でも相談できますが、継続的な相談を希望する場合には、てんかん協会への入会が必要です。ピア相談では、同じ立場の会員から、学校での対応や仕事のことについての体験談を聞くことができます。
その他に、他の疾患と同じ相談先としては、以下があげられます。
● 難病相談支援センター:各都道府県にある。指定難病に該当するてんかんの場合には、相談先の一つになる
● ハローワークの障害者専門窓口:てんかんなど障害のある方を対象に、就職に関する相談や職業紹介、職場定着に向けた支援などをしています。ハローワークによっては、精神障害などのある方を専門的に支援する「精神・発達障害者雇用サポーター」が配置されています。
● 難病患者就職サポーター:指定難病など難病のある方については、配置されているハローワークで、難病の特性を踏まえた就職・雇用継続の支援を受けられる場合があります。
● 障害者就業・生活支援センター:職業生活での自立のため、関係機関と連携して身近な地域で就業面や生活面で一体的な支援をする
就職・転職を考えるなら、障害者雇用も選択肢になります。障害者雇用とは、障害者雇用促進法で企業に2.7%に相当する障害者を雇用する義務があることによる求人です。基本的に、精神障害者保健福祉手帳を持っていれば対象者になれます。
てんかん治療と仕事の両立について、働き方の工夫や活用できる制度を解説しました。
てんかんとは、発作をくりかえす脳の病気です。症状や重症度は人によりさまざまですが、多くの場合、治療の継続で支障なく社会生活を送れます。
治療のために、就労上では悩みや困りごとが出てきますが、生活を整えることで発作は起きにくくなります。働き方や困りごとで悩んでも、決して一人で抱え込まないようにしましょう。何かで悩んだら、まずは主治医や会社、ハローワークや難病相談支援センターなどの窓口に相談してみてください。指定難病に該当する場合には、難病相談支援センターも相談先の一つです。ご自身の体調を第一に考え、無理のないペースで働き方を見つけていくことが大切です。
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