中島 一郎 先生インタビュー|中編

●神経免疫疾患とはどのような病気か

山野先生インタビュー

神経免疫疾患とは、簡単に言えば、免疫の働きが関わり神経に炎症が起こる病気の総称です。 

 中島先生はまず、免疫の本来の役割について説明してくださいました。 

たとえば、風邪をひいて喉に炎症が起こることがあります。これは、体の中に入ってきたウイルスを排除しようとして、免疫が働いている状態です。熱が出るのも、体がウイルスとたたかうための反応の一つです。 

 本来、免疫はウイルスや細菌など、外から入ってきた病原体から体を守るための仕組みです。しかし、何らかの理由で、免疫が自分自身の組織を「異物」と勘違いして攻撃してしまうことがあります。その結果、体の中で炎症が起こります。 

 中島先生は、免疫疾患について、自分自身の組織を異物と勘違いして炎症を起こす病気だと説明します。そして、その炎症が神経組織に起こるものが、神経免疫疾患です。 

 炎症が起こる場所は、脳や脊髄などの中枢神経、全身に広がる末梢神経、場合によっては筋肉など、さまざまです。視神経脊髄炎や多発性硬化症は、脳や脊髄などの中枢神経に炎症が起こる病気に含まれます。  

 免疫は、本来、体を守るために欠かせない仕組みです。神経免疫疾患は、その免疫の働きが自分自身の神経組織に向かい、炎症を起こしてしまう病気だといえます。  

●神経免疫疾患は遺伝する病気なのか 

患者さんやご家族にとって、「家族に遺伝するのか」は気になる点の一つです。 

 中島先生は、神経免疫疾患には遺伝的な要因がまったくないわけではなく、「なりやすさ」に関わる要素はあると説明します。 

 たとえば多発性硬化症では、HLAと呼ばれる白血球表面抗原の一部が、発症しやすさに関係しています。中島先生は、HLAの中でも「DR2」と呼ばれる型を持っている人は、多発性硬化症になりやすい傾向があると話します。 

 ただし、これは「親が病気だから、子どもも同じ病気になる」というような直接的な遺伝ではありません。病気そのものが親から子へ受け継がれるというよりも、あくまで「なりやすさ」に関わる体質の一部として考える必要があります。 

 また、こうした遺伝的な要因は血液検査で調べることも可能です。しかし、中島先生は、検査で分かったことが発症に100%つながるわけではないと話します。 

 たとえばHLAの型のひとつである、DRB1*1501は、日本人多発性硬化症の患者さんの約30%にみられる一方で、健康な人でも5〜10%ほど持っていることがわかっています。つまり、リスクは高くなるとしても、検査だけで将来発症するかどうかを確実に予測できるわけではありません。 

 遺伝的な要因はありますが、「必ず家族に遺伝する病気」と考える必要はありません。中島先生の説明からは、神経免疫疾患における遺伝は、病気そのものが受け継がれるというより、「なりやすさ」に関係するものとして理解することが大切だと分かります。

●視神経脊髄炎と多発性硬化症の違い

視神経脊髄炎と多発性硬化症は、どちらも脳や脊髄などの中枢神経に炎症が起こる病気です。いずれも、免疫反応によって神経の中で炎症が起こり、症状が出る時期と落ち着く時期を繰り返すことがあります。

 一方で、炎症が起こる仕組みや、病気の進み方には違いがあります。 

 中島先生によると、視神経脊髄炎では、アストロサイトと呼ばれる細胞が主な標的になります。アストロサイトは中枢神経を支える細胞の一つです。一方、多発性硬化症では、何が主な標的になっているのか、まだ十分には分かっていないといいます。 

 また、再発の起こり方にも違いがあります。中島先生は、視神経脊髄炎の炎症を「山火事」にたとえます。 

 「視神経脊髄炎の場合は、炎症がかなり強くてですね。例えるなら、山火事みたいなものです。」 

 視神経脊髄炎では、一度炎症が起こると大きな山火事のように強く広がることがあります。ステロイドなどの治療で炎症を抑えることは、火に水をかけて消すようなものです。しかし、再発すると、また別の場所で火が出るように炎症が起こります。 

 一方で、多発性硬化症について中島先生は、「常に火がくすぶっているような状態」と表現します。 

 「多発性硬化症の場合には、常に火が燃えているような状態で、時々大火事になるんです。」 

 視神経脊髄炎では、いったん火が消えれば、再発しない限り山火事が広がることはありません。しかし多発性硬化症では、火が完全に消えきらず、くすぶり続け、ときどき大きな炎症として現れる。そこに、両者の違いがあるといいます。 

 この違いは、治療の考え方にも関わります。視神経脊髄炎では、再発そのものを防ぐことがとても重要です。治療をしなければ、1年に1回から2回ほど再発することもあると中島先生は話します。一方で、現在は再発を予防する治療が進歩し、再発の頻度を大きく抑えられるようになっています。 

 「今ある薬だと、年間再発率で0.1くらい。10年に1回くらいの再発に抑えられています」 

 視神経脊髄炎も多発性硬化症も、早期に診断し、適切な治療につなげることが大切です。特に視神経脊髄炎では、強い再発によって神経に大きなダメージが残ることがあるため、再発を防ぐ治療を継続することが重要になります。

●早期診断・早期治療が大切な理由とは

神経免疫疾患では、早期診断と早期治療がとても重要です。 

 中島先生は、神経免疫の専門医が診ることで、できるだけ早く診断し、早く治療につなげることが望ましいと話します。診断が遅れると、神経組織にダメージが残ってしまうことがあるためです。 

 たとえば、視神経脊髄炎で片方の目が失明に近い状態になった場合でも、早く診断し、1日、2日のうちに治療を始めることができれば、回復が期待できる場合があります。 

 中島先生は、早期治療の例として、血漿浄化療法、いわゆるアフェレーシスに触れています。これは、血液中にある病気に関わる成分を取り除くことを目的とした治療で、視神経脊髄炎などの急性期治療で行われることがあります。 

 一方で、診断が1週間遅れたり、場合によっては数か月遅れたりすると、回復が難しくなることがあります。 

 「とにかく早く診断して治療してあげないと、後遺症として残ってしまう。」 

 中島先生は、そう話します。 

 また、近年は視神経脊髄炎や多発性硬化症だけでなく、重症筋無力症などを含む神経免疫疾患全体で、治療法が大きく進歩しています。 特に生物学的製剤などの治療が広がり、早い段階から治療を始めることで、長期的な経過がよくなることを示す知見も増えてきているといいます。 

 ただし、中島先生は、神経免疫疾患の早期診断・早期治療は、がんの早期発見とは少し意味合いが違うとも話します。 

 がんの場合は、「治るかどうか」「命に関わるかどうか」という文脈で早期発見が語られることがあります。一方、神経免疫疾患では、日常生活をできるだけ支障なく続けられる状態を保つために、早く診断し、早く治療を始めることが大切です。 

 特に視神経脊髄炎では、再発を防ぐ治療を長く続けていく必要があります。中島先生は、視神経脊髄炎について「一生かけて再発予防しないといけない」と話します。 

 また、重症化した場合のリスクについても触れています。多発性硬化症では、病気そのものが直接命に関わることは多くないとしたうえで、視神経脊髄炎では、炎症が呼吸に関わる部位に起こると、呼吸不全につながることがあります。意識障害が起こることもあり、ごくまれではあるものの、命に関わる状態になる可能性があるといいます。 

 だからこそ、気になる症状があるときに「気のせい」と決めつけず、早めに脳神経内科や専門医につながることが大切です。突然の視力低下、手足のまひやしびれ、ものが二重に見えるなどの症状がある場合には、早めの相談が、その後の生活を守ることにつながります。


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