脊髄性筋萎縮症 岡本 和子さん インタビュー(後編)


病気になって気づいた、本当に大切なもの

― 人とのつながりが教えてくれたこと


病気とともに歩んだ15年。

ライブへの挑戦、初めての講演会、そして多くの人との出会いを通して、

               岡本さんが気づいた「本当に大切なもの」とは――。

             同じ病気と向き合う方への温かなメッセージもお届けします。



インタビュー目次

〇病気になって気づいたこと

〇初めての講演会で伝えたこと 🔒

〇同じ病気と向き合う方へ 🔒


病気になって気づいたこと

岡本さんには長年続けている大切な趣味があります。

それは「推し活」です。


人気グループの大ファンで、これまで何度もライブに足を運んできました。

ライブは、岡本さんにとって日々の楽しみであり、頑張るための大きな原動力でもありました。


病気が進行してからも、「ライブに行きたい」という思いは変わりませんでした。


しかし、身体の状態が変わるにつれて、これまで当たり前だった遠出も簡単なことではなくなっていきます。

札幌ドームでのライブに参加していた頃は、会場の長い階段を上ることが難しくなりました。

以前なら何も考えずに歩けていた距離も、途中で休憩が必要になるようになりました。


「もうライブに行くのは無理かなと思ったこともありました」


それでも諦めたくありませんでした。

車椅子席の抽選に申し込み、当選した時にはライブへ足を運び続けました。

そして活動休止が発表された時、どうしても参加したかったのが東京ドームでの公演でした。


娘さんと二人で東京へ向かった岡本さん。

当時はまだ杖を使いながら移動していた頃でした。

長距離の移動は身体への負担も大きく、不安もありました。

それでも「絶対に行きたい」という思いが勝ったといいます。


しかし、その道中で忘れられない経験をしました。

東京の電車内でのことです。

杖をつき、娘さんの腕につかまりながら立っていた岡本さん。

車内には優先席もありました。

けれど誰一人として席を譲ってくれる人はいなかったそうです。


「正直、ショックでした」


健康だった頃の岡本さんは、困っている人を見かければ自然に席を譲る側でした。

だからこそ、自分がその立場になった時、「誰かが気づいてくれるだろう」とどこかで思っていたのかもしれません。

しかし現実は違いました。

目の前に杖をついている人がいても、見えていないように振る舞う人もいました。

スマートフォンを見続ける人もいました。


「世の中って、杖をついているからといって必ず助けてもらえるわけじゃないんだなって思いました」


その時は悲しくて、悔しくて、涙も出たといいます。

けれど同時に、大きな気づきもありました。

それは、自分自身も健康だった頃には見えていなかったものがあったということです。


「病気になったからこそ気づけることがありました」


足が不自由な人。

車椅子を利用している人。

目に見えない障害を抱えている人。

これまで何気なくすれ違っていた人たちが、どのような思いで生活しているのか。


どんな場面で困っているのか。

病気になって初めて想像できるようになったといいます。


街を歩いていても、以前とは見える景色が違います。

段差の高さ。

狭い通路。

入り口の階段。

多目的トイレの有無。

健康な頃には意識しなかったことが自然と目に入るようになりました。


また、「助けてほしい」と思っていても、その気持ちを口に出せない人がたくさんいることにも気づきました。

だからこそ今は、困っている人を見かけると以前よりも気になるようになったそうです。


「この人は今、何か手伝ってほしいのかなって考えるようになりました」


病気は決して望んだものではありません。

できることなら経験したくなかった苦しみも数多くありました。

それでも、その経験を通して得た学びや気づきも確かに存在しています。


そして岡本さんがもう一つ繰り返し話してくださったのが、「人とのつながり」の大切さでした。

病気が進行してから今日までの15年間、一人でここまで来たわけではありません。

転倒した時には、すぐに駆けつけてくれる友人がいました。

幼稚園時代から続くママ友たちは、今も変わらずランチに誘ってくれます。

近所の方々も気にかけてくれています。


岡本さんは以前、町内会や子ども会の役員を長年務めていました。

地域のために積極的に活動してきたこともあり、多くの人とのつながりがありました。

そして今、その人たちが支える側になってくれているのです。


「昔たくさん頑張ってくれたんだから、今は私たちが助ける番だよって言ってくれるんです」


その言葉に何度も励まされたといいます。


病気によって失ったものは確かにあります。

しかし、その一方で人とのつながりの温かさをこれほど深く感じることができたのも、この15年間だったのかもしれません。


「いろいろな人の支えがあって、今の私があります」


その言葉には、ご家族への感謝、友人への感謝、地域の方々への感謝、そして介護スタッフへの感謝が込められていました。


病気になったことで見える景色は変わりました。

不自由さを感じることもあります。

悔しい思いをすることもあります。


それでも岡本さんは、人とのつながりの中で支えられながら、自分らしい毎日を大切に生きています。


インタビューの中で見せてくださった穏やかな笑顔は、その15年間を支えてくれた多くの人たちへの感謝の気持ちそのもののように感じられました。



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