慢性疲労症候群 近藤 菜津紀 さん インタビュー(前編)

「みんなも同じなのかな」――診断まで約20年。

慢性疲労症候群と向き合いながら、獣医師を目指した歩み

獣医師・近藤菜津紀さんインタビュー【前編】


「身体が痛い」

「立っているのが辛い」

「頭がぼーっとして、何をしているのか分からない」

そんな体調不良が始まったのは、中学1年生の頃でした。


それまで大きな病気をしたこともなく、元気に生活していた近藤菜津紀さん。

インフルエンザにかかったことをきっかけに、身体に力が入らない、

めまいがする、身体が痛いといった症状が現れるようになりました。


最初は、「そのうち治るだろう」と思っていたといいます。

しかし、症状はなかなか治まりません。

病院を受診しても、はっきりとした原因は分からない。

それでも近藤さんは学校へ通い、獣医師を目指して大学へ進学しました。


身体が思うように動かない中でも、獣医師になるという夢をかなえ、国家資格を取得。

その後、公務員獣医師として働いた経験もあります。

一方で、体調は徐々に悪化し、働き続けることが難しくなっていきました。

診断がついたのは、最初の症状から約20年後。


今回は、近藤さんが体調の異変を感じた中学時代から、

獣医師として働き、慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断にたどり着くまでのお話を伺いました。


インタビュー目次

1.インフルエンザをきっかけに始まった体調の変化

2.「立っているのが辛い」――それでも学校へ

3.「何をやってもうまくいかない」――獣医師を目指した理由

4.「受かった!」よりも「卒業できた」が嬉しかった🔏

5.動物病院から公務員獣医師へ🔏

6.知られざる「公務員獣医師」の仕事🔏

7.「楽しい」と「身体の負担」の間で🔏

8.「病名がないと休職できない」――診断を求めて大阪へ🔏

9.「病気と戦わない」――病気だけを自分の中心にしたくなかった🔏

インフルエンザをきっかけに始まった体調の変化

現在、近藤さんはNPO法人両育わーるどの活動に、当事者として参加しています。


両育わーるどでは、慢性疾患などのある当事者が、自分自身の症状や体調を記録し、
可視化できる「RDログ」というアプリの開発にも取り組んでいます。
近藤さん自身も、3~4年ほど前から活動に参加。


アプリでは、自分の体調を10段階に分けて記録する症状レベルをはじめ、
その日の仕事にどのくらい負荷を感じたか、心理的な状態、体調が良くなったと感じた要因や、
悪化につながったと思われる要因などを、自分自身で記録することができます。


さらに、蓄積した記録をAIが分析することで、

「自分にはこういう傾向がある」と気づくきっかけになったり、

「こうしてみてはどうですか」といった推奨アクションが提示されたりする仕組みになっています。


ただし、このアプリは、他の人と自分の症状を比較するためのものではありません。

「自分の中で、体調にどのような波があるのかを知ることが大切なんです」

近藤さんは、日々の記録を通して、自分自身の状態を振り返ることに意味があると話します。


症状の感じ方や「今日は仕事が大変だった」と感じる基準は、人によって異なります。

だからこそ、一般的な基準と比べるのではなく、「昨日の自分」「先月の自分」と比べながら、

自分自身の変化を知っていく。その積み重ねが、少しでも生活を楽にするためのヒントになるといいます。


近藤さん自身も、慢性疲労症候群を発症してから長い年月が経っていますが、

記録を続けることで、「以前はこんな状態だったのか」「このときは少し楽だったんだ」と、後から気づくことがあるそうです。


体調が悪いときには、「もっと頑張らなくてはいけない」と思ってしまうこともあります。

そんなとき、記録をもとにAIから「少し休んだほうがよいかもしれません」と

提示されることで、すべてをその通りにすることはできなくても全力で頑張らなければ」と

思っていたところを「今日はいつもより少し休憩時間を長めにしてみよう」と考えられる。

その小さな変化だけでも、本人にとっては生活のしやすさにつながるのではないか――。

そんな思いも込められています。


近藤さん自身が最初に体調の異変を感じたのは、中学1年生のときでした。

きっかけは、インフルエンザでした。

インフルエンザにかかった後、身体に力が入らなくなったり、めまいがしたり、身体の痛みを感じたりするようになりました。


それまで大きな病気をした経験がなかった近藤さんは、当初、それほど深刻には考えていなかったといいます。

「そのうち治るだろう」

最初は、そう思っていました。


ところが、時間が経っても症状はなくなりませんでした。

毎日毎日、身体が重く、思うように動かない。

病院を受診しても、はっきりとした原因は分からないまま。

良くなるわけでもなく、かといって明確な病名がつくわけでもない状態が続いていきました。


それまで普通にできていたことが、少しずつ難しくなっていきました。

それでも、「これは一時的なものなのかもしれない」「そのうち元に戻るのかもしれない」

と考えながら、日々を過ごしていたといいます。


しかし、その「そのうち」はなかなか訪れませんでした。

中学1年生という多感な時期に、近藤さんは、原因の分からない身体の不調を抱えながら学校生活を送ることになります。

そこには、病気そのもののつらさだけではなく、「自分はいったいどうなっているのだろう」という戸惑いもありました。


この頃から始まった体調の変化は、その後、近藤さんの学校生活や進路、

仕事、そして日々の暮らしに長く影響していくことになります。


「立っているのが辛い」――それでも学校へ


中学1年生の頃から始まった体調の変化は、

近藤さんの日常生活を少しずつ変えていきました。


それまで当たり前にできていた「立つ」「歩く」「授業を受ける」といったことが、

少しずつ大きな負担になっていったのです。


「立っているのが辛くて、何をしていても座っていて痛い。頭もぼーっとしていて、

先生が何を話しているのか分からない」

身体が思うように動かないだけではありません。

頭にもやがかかったような感覚があり、授業中に先生が何を話しているのか、

うまく理解できないこともありました。


学校に行ける日は、なんとか学校へ向かう。

けれど、朝から身体が動かず、どうしても行くことができない日もある。

「今日は休もう」と自分で決めるというよりも、

「身体が動かないから、行くことができない」。そんな日々を繰り返していました。


特に歩くことは大きな負担でした。

一歩歩くたびに力を使い果たしてしまうような感覚。

それでも学校生活は続いていきます。


周りの同級生たちは、当たり前のように歩き、授業を受け、友達と話し、部活動などの学校生活を送っている。


近藤さんにとっては、「身体が辛い」ということだけでなく、

その辛さをどう説明したらいいのか分からないことも、大きな苦しさにつながっていました。

病名がついていないため、「自分は病気なのだ」とも言い切れません。

もちろん、健康だとも思えない。

これまで普通にできていたことができなくなっているのに、その理由を自分自身でも説明することができないのです。


そんな状況の中で、近藤さんの中には、ある疑問が少しずつ生まれていきました。

「みんなもそうなのかな」

自分だけが特別に辛いのか。

それとも、誰もが同じように疲れていて、痛みを感じながら、それでも学校に通っているのか。


「みんなすごいな、私はこんな感じでもう無理なんだけど。

他の人は同じ状況で同じように生活しているのかなって思っていました」


こうして近藤さんは、体調の悪さを抱えながらも、できる日は学校へ行き、難しい日は休むという生活を続けていきました。

そして、この「原因が分からないまま日常生活を送る」という経験は、

その後も長く続いていくことになります。


中学1年生から始まった体調の変化は、やがて進学や仕事、

そして将来の生き方にも大きな影響を与えていきました。

でも近藤さんは、ただ立ち止まっていたわけではありません。

身体が思うように動かない中でも、「自分には何ができるのだろう」と考えながら、少しずつ前へ進もうとしていました。


その先で出会ったのが、「獣医師」という道でした。


「何をやってもうまくいかない」――獣医師を目指した理由

体調が思うようにならない日々を過ごしていた近藤さん。


そんな中で、近藤さんが目指すことになったのが「獣医師」という道でした。


近藤さんのご両親は、獣医師として働いていました。

幼い頃から、両親から大学生活や仕事についての話を聞く機会も多く、

近藤さんにとって「獣医師」という仕事は、決して遠い存在ではなかったといいます。

ただ、当時から「絶対に獣医師になりたい」という強い夢を抱いていたわけではありませんでした。

むしろ、両親から聞く大学生活が楽しそうだったことが、進学を考えるきっかけの一つになりました。

「大学って楽しそうだな」

そんな、とても素直な気持ちから始まった進路選択でした。


一方で、近藤さんにとって大学進学には、もう一つの意味もありました。

体調を崩してからというもの、それまで普通にできていたことが、次々と難しくなっていました。

勉強をしても思うように頭が働かない。

身体を動かそうとしても、以前のようには動けない。

学校生活の中で、周囲の人と自分を比べてしまうこともありました。


「なんか全然何やってもうまくいかないな」

そう感じることが増えていったのです。


病気の原因も分からない。

体調が悪い理由も分からない。

それでも、周りの人たちは当たり前のように学校生活を送り、自分のやりたいことに向かって進んでいる。

そんな姿を見ていると、「どうして自分はできないんだろう」と悔しさを感じることもありました。


「自分も何かを成し遂げたい」

「自分だってできることを見つけたい」

そんな気持ちが、少しずつ強くなっていったのです。


「何をやってもうまくいかないな、ってなったときに、やっぱりちょっと悔しかったんです。

若いときの特徴なのかもしれませんけど、『自分もやってやる』『負けたくない』という気持ちがありました」

その気持ちが、近藤さんを前へ進ませる大きな力になりました。


もちろん、当時は自分の体調について、まだ明確な診断がついていませんでした。

病院を受診しても原因は分からず、「ストレスではないか」と言われることもありました。

そのため、近藤さん自身も、自分の身体がなぜこのような状態になっているのかを理解できないまま、将来の進路を考えていました。


それでも、「大学に行ったら何か変わるかもしれない」。

「大学生活は楽しそうだし、そこに行けば新しい世界が広がるかもしれない」。

そんな期待もあったといいます。


そして実際に大学へ進学すると、近藤さんを待っていたのは、それまでとはまったく違う世界でした。

獣医学を学ぶ環境には、動物との実習や専門的な勉強など、

これまで経験したことのない刺激がたくさんありました。


体調の問題を抱えながらの大学生活は、決して簡単なものではありませんでした。

それでも、大学には「楽しい」と思える瞬間がありました。

新しいことを学び、さまざまな人と出会い、それまで知らなかった世界に触れる。

体調が悪いからといって、自分の人生のすべてを病気に決められたくない。

そんな思いもあったのかもしれません。


「なんかこう、楽しいことをしたら良くなるんじゃない、みたいな気持ちもあって。

じゃあ大学に入ればいいんじゃない、みたいなところもありました」


もちろん、大学に進学したからといって、体調の問題がなくなったわけではありません。

むしろ、身体が思うように動かない中で、授業や実習、試験などに取り組まなければならない日々は、

大きな負担を伴いました。

それでも、近藤さんは学び続けました。

「負けたくない」という気持ちを胸に、できることを一つずつ積み重ねていったのです。


その後、6年間の獣医学教育を終え、国家試験を受けるところまでたどり着きます。

振り返ってみると、国家試験そのものよりも、大学の授業や実習を乗り越え、

卒業までたどり着くことのほうが大きな壁だったといいます。

特に実習では、身体を動かすことが求められる場面も多くありました。

それでも、「獣医師になる」という道を、途中で諦めることはありませんでした。


身体に不調を抱えながらも、自分の可能性を諦めない。

その姿勢は、後の近藤さんの人生にもつながっていきます。

そして、獣医師として働き始めた近藤さんは、動物病院や公務員獣医師としてさまざまな仕事を経験することになります。


しかし、そこで待っていたのは、学生時代とはまた違った「働くこと」の難しさでした。

「頑張ればできる」だけでは乗り越えられない現実。

それを知ることになるのは、もう少し先のことでした。.....................................




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