慢性疲労症候群 近藤 菜津紀 さん インタビュー(後編)

「病気があっても、私=病気じゃない」

自分に合った働き方と、記録することの意味

獣医師・近藤菜津紀さんインタビュー【後編】


中学1年生の頃から続いていた体調不良。

診断にたどり着くまでには、約20年の時間がかかりました。


慢性疲労症候群と診断された後も、すぐに生活が楽になったわけではありません。


「どうすれば働き続けられるのか」

「どうすれば、できることを残せるのか」

近藤さんは、自分の身体と相談しながら、さまざまな方法を試していきました。


車いすを使うという選択。

公務員を辞めるという決断。

介護ベッドの上から働くという新しい働き方。

そして現在は、動物の絵を描く仕事をしています。


NPO法人両育わーるどの活動にも参加し、

症状や体調を記録して可視化するアプリ「RDログ」の開発にも携わっています。


後編では、近藤さんが「自分らしく働く」ために試行錯誤してきた道のりと、

記録することの意味、そして同じように体調不良や生活上の困難を抱える方への

メッセージを伺いました。


インタビュー目次

1. 「車いすを使ってもいい」――できることを残すために

2.   「横になっていても働ける」――介護ベッドからの仕事

3. 「手は動くぞ」――動物の絵が仕事になった

4. 「できないかもしれない」という不安が少なくなった🔏

5. 家族との関係――「分かってもらおう」とした日々🔏

6. 妊娠・出産――「子どもがいるから育てる」🔏

7. 治療だけではなく、「自分の生活を調整する」🔏

8. 「RDログ」との出会い🔏

9. 「病気を治す」だけではなく、「生活の困難」を相談してほしい🔏

10. 「自分が生きたいように生きることを、諦めないでほしい」🔏

11. 病気があっても、「私=病気」ではない🔏

「車いすを使ってもいい」――できることを残すために


慢性疲労症候群と診断され、自分の体調と向き合うようになった近藤さんは、

その後、一度、公務員獣医師としての仕事に復帰しました。


「診断がついたから、これで元の生活に戻れる」というわけではありませんでした。


症状は続いており、特に大きな負担となっていたのが、歩くことそのものでした。


歩くためには体力を使います。

そして、近藤さんの場合、その体力を使えば使うほど、仕事だけでなく、その後の生活にも影響が出てしまいます。


仕事には行けても、帰宅したら何もできない。

家族と出かけたいと思っても、そのための体力が残っていない。

そんな状況が続いていました。


あるとき、リハビリテーションの先生から、近藤さんに提案がありました。

「体力温存のために車いすを使ってもいいですよ」

当時の近藤さんにとって、それは大きな転換点となる言葉でした。


それまで「車いす」というものは、足が悪くて歩けない人が使うもの、というイメージがありました。

近藤さん自身も、足そのものに障害があるわけではありません。

だからこそ、最初は「自分が車いすを使っていいのだろうか」という感覚もあったといいます。


しかし、実際に使ってみると、思っていた以上の変化がありました。

車いすに乗ることで、歩くために使っていた体力を温存できます。

すると、その分のエネルギーを、別のことに使えるようになります。


仕事をするための体力。

家族と過ごすための体力。

外出するための体力。


これまでなら、歩くだけで使い切ってしまっていたエネルギーを、

別のところに残しておくことができました。


「車いすに乗った状態だと、ちょっと頭がよく働くとか、

家族でも少し出かけられるとか、そういうことがありました」


車いすは、近藤さんにとって「できないこと」を示すものではありませんでした。

むしろ、できることを残すための手段だったのです。

歩くことを減らすことで、ほかのことができる。

移動に使う体力を抑えることで、人と話すことができる。

外出するためのエネルギーを残すことで、家族との時間を持つことができる。

「歩けるか、歩けないか」だけでは測れない、

近藤さんにとっての生活の選択肢が広がっていきました。


一方で、職場に戻ると、別の難しさが見えてきました。

車いすを使うことで、身体的にはできることが増えました。

しかし、職場の業務には「立って行うこと」「移動すること」が前提になっている仕事もあります。


獣医師という専門職であるにもかかわらず、車いすを使うことで

担当できる仕事が限られてしまいました。


「専門職なのに、事務仕事が中心になってしまうと、『私がいる意味ってあるのかな』と思ってしまって」


獣医師になるために、長い年月をかけて勉強してきた近藤さん。

身体が思うように動かない中でも、6年間の大学生活を乗り越え、国家試験にも合格しました。

だからこそ、「獣医師として働きたい」という思いは強くありました。


ところが、身体を守るために車いすを使うと、今度は専門職としてできる仕事が減ってしまう。

一般的なイメージと、近藤さんの実際の身体の状態との間には、どうしてもギャップがありました。

車いすに乗っている姿を見れば、「足が悪いのだろう」と思われる。


ところが、立ち上がれば、「歩けるんだ」と驚かれる。

こうした状況は、周囲から理解されにくいことがあります。


近藤さんは、車いすの種類を変えてみたら良いのかな、

リクライニング機能を使ってみたら良いのかな、など試行錯誤し、

装具を扱う専門家に相談したりもしました。


「どうしたら、もう少し仕事ができるようになるんだろう」

身体的な負担を減らしながら、できるだけ仕事を続ける方法を探しました。


それでも、ハード面だけを工夫すれば解決する問題ではありませんでした。

周囲の理解や職場の環境、そして何より、仕事そのものが身体に与える負荷。

さまざまな要素が重なり、少しずつ「この働き方を続けるのは難しいのかもしれない」

と感じるようになっていきます。


その後、職場を離れるという決断をしたときも、

近藤さんは「何もできなくなった」と考えていたわけではありません。

むしろ、「今の自分の身体でもできることは何だろう」と、次の働き方を探し始めました。


それは、これまでとは違う形で、自分らしく働く方法を模索する始まりでもありました。


「横になっていても働ける」――介護ベッドからの仕事

当時、近藤さんは自身の病気について書いた本を出版していました。


そのため、執筆の仕事も考えました。

しかし、文章を書く仕事だけで生活していくためには、かなりの量をこなす必要があります。


体調を考えると、それも簡単ではありませんでした。


そんなとき、クラウドソーシングを通じて、ペットに関する相談サービスを行う会社から声がかかります。

獣医師として、ペットの飼い主からの相談を受ける仕事です。

電話やLINE、メールなどを使って、自宅から対応することができました。

そこで近藤さんが考えたのが、

「介護ベッドの上なら働けるんじゃないか」

ということでした。


パソコンを使えば、横になった状態でも仕事ができる。

これは、身体を休めながら働くための大きな可能性でした。


しかし、実際には仕事量も多く、月300件ほどの相談を受けることも。

「なんとか食いつないでいるけど、すごいな、これどうしよう、という感じでした」

横になっているからといって、仕事の負担がなくなるわけではありません。


それでも、「働く」ということを諦めず、自分にできる方法を探し続けました。


「手は動くぞ」――動物の絵が仕事になった

さまざまな仕事を経験する中で、近藤さんが現在の仕事としてたどり着いたのが「絵」でした。

現在は、犬や猫などの動物の絵を描き、販売しています。

飼い主さんからの依頼で大切なペットの絵を描いたり、

動物病院の企画で飼い主さんへ渡す絵を制作したり。

亡くなったペットの絵を依頼されることもあります。


もともと絵を描くことは好きだったという近藤さん。

アクリル絵の具で作品を描いたところ、とても喜んでもらえたことがきっかけの一つになりました。

「こっちのほうがいいんじゃないかな、と思って」


現在はInstagramやハンドメイドの販売サイトなどを通して作品を発信しています。

獣医師として動物と向き合ってきた経験も、作品の中に生かされています。


「動物の表情を描きたいなと思っています」


近藤さんの描く動物たちは、どこか生き生きとしていて、動物への愛情が感じられます。.....................................




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