遺伝学的検査とは?

難病の診断で行う検査の役割・流れと結果の受け止め方をわかりやすく解説

難病の診断で行う「遺伝学的検査」とは?生まれ持った体の設計図を調べ病気の原因を特定に役立てる検査

遺伝学的子検査とは? 難病の診断で行う検査の役割・流れと結果の受け止め方をわかりやすく解説

難病の診断で行う「遺伝学的検査」は、体の設計図である「遺伝子」を調べることで、病名や原因を特定して今後の治療やケアに役立てるための検査です。

私たちの身体は、約37兆個という途方もない数の細胞で構成されています。
その一つひとつの細胞の中には、体の形や働きを形作るための「設計図」が存在します。
この設計図の役割を果たしているのは、らせん構造の物質「DNA」です。そのDNAの中に含まれる具体的な遺伝情報を「遺伝子」と呼びます。1)

遺伝学的検査とは、血液や組織などを採取し、この遺伝子の配列にどのような特徴や変化があるかを細かく調べる検査のことです。専門用語では、こうした遺伝子の配列の違いや変化のことを「バリアント(Variant)」と呼びます。

難病や希少疾患(珍しい病気)の現場において、遺伝学的検査を行う主な役割は次の3つです。

〈遺伝学的検査の3つの役割〉

  1. 正確な病名(確定診断)の特定
    症状だけでは判断が難しい病気について、原因となる遺伝子の変化を確認することで、正確な診断につながることが期待できます。

  2. 将来の見通しの把握
    病名や、病気の原因が特定されることで、今後どのような症状が現れやすいか、どのような経過をたどるかといった見通しを立てやすくなります。

  3. 適切な治療やケアの選択
    自分の遺伝子タイプに合った薬(分子標的薬など)の選択や、今後必要となるケアを考えるための情報が得られる場合があります。

Q. どのような場面で遺伝学的検査を検討しますか?必ず受けた方がよいのでしょうか?

すべての方が必ず受けなければならないわけではありません。主に次のような状況が検討の目安となります。

● 原因がわからない症状が長く続き、一般的な検査で病名を確定するのが難しいとき

● 特定の遺伝子の変化に対して効果がある薬や治験(新しい薬の試験)の選択肢があるとき

● ご家族やご親族に同じ症状の方がいて、遺伝的な影響を確認したいとき

遺伝学的子検査は、病気を治すためだけのツールではなく、ご自身やご家族がこれからの生活や治療の計画を納得して立てるための「道しるべ」となるものです。

インターネットや市販で購入できる「民間企業の遺伝子検査キット」との違いに注意しましょう。
遺伝子検査キットでは、ある病気にどのくらいなりやすいか、ダイエットの向き不向き、肌質、ルーツ(祖先)などを調べることができます。
これらの検査は、医療機関で病気の診断を目的に行う「遺伝学的検査」とは、目的や検査結果の解釈・扱い方が異なります。病院で行う検査は、厳重な品質管理と医師の診断のもとで実施される医療行為なので混同しないようにしましょう。2
)

遺伝学的検査を受ける際の流れと心がまえ:自分とご家族の意思で納得して進める

検査を受ける前には、主治医などから検査の目的や得られる情報、検査の限界について説明を受けます。必要に応じて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなどによる遺伝カウンセリングを受けたうえで、検査を受けるかどうかを決めます。

遺伝学的検査は、一般的な採血や画像検査とは異なり、ご自身の将来だけでなく血縁関係のあるご家族にも関わる情報が含まれることがあります。そのため、受ける際の手順や心理的なサポート体制はより手厚く整えられています。

基本的な受診の流れは以下の通りです。

  1. 主治医からの説明(インフォームド・コンセント):検査を行う目的、検査によって得られる情報、検査の限界について主治医から丁寧な説明を受けます。
  2. 遺伝カウンセリング:臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなどの専門職から、検査のメリット・デメリット、心理的な影響について詳しい説明とカウンセリングを受けます。3)
  3. 意思決定と同意書の記入:疑問や不安を解消した上で、検査を受けるかどうかをご自身やご家族の意思で決定し、同意書に署名します。
  4. 検体の採取:主に少量の採血(血液採取)によって検体を採取します(疾患によっては皮膚や組織の一部を使う場合もあります)。
  5. 結果の開示と今後の相談:数週間〜数ヶ月後、再び専門家と一緒に結果を確認し、これからの過ごし方を話し合います。

重要なのは、「医師から提案されたからといって、必ず受けなければならないわけではない」という点です。
遺伝カウンセリングは、検査を強要する場ではありません。疑問を解消することはもちろん「今はまだ結果を知るのが怖い」「家族と話し合う時間がほしい」と、不安を感じた場合には、検査を延期したり断ったり、受けないことを選択したりすることもできます。自分たちのペースで納得して選択することが何より尊重されます。
なお、診断目的で行う検査とは別に、「出生前検査」や「着床前検査」、「発症前検査(まだ症状がない人が将来の発症リスクを調べる検査)」などもありますが、これらは目的や倫理的な配慮が大きく異なるため、個別の専門外来でより慎重な対話のもとで行われます。4)

遺伝学的子検査の費用と保険適用はどうなる?制度の仕組みと確認したいポイント

病院で行う診断目的の遺伝学的検査は、公的医療保険が適用される場合と全額自己負担(自費)になる場合があり、対象となる疾患や検査の種類によって異なります。

医療機関で受ける遺伝学的検査の費用は、ご自身の病名や調べる検査項目によって大きく異なります。

Q. 遺伝学的検査には保険が適用されますか?

国によって認められた特定の指定難病や遺伝性疾患の検査には保険が適用されます。一方、研究段階の検査や未承認の検査は全額自己負担(自費)になる場合があります。

● 保険適用となるケース
厚生労働省が認めた特定の疾患(多くの指定難病や特定の遺伝性腫瘍など)の確定診断に必要な検査。公的医療保険が適用されるため、窓口での自己負担は1割〜3割となります。5)

● 自費(自由診療)となるケース
まだ保険収載されていない検査や、研究段階にある検査、または特定の条件を満たさない場合です。費用は全額自己負担となり、数万円から十数万円以上かかることもあります。

遺伝カウンセリング自体にかかる費用(カウンセリング料)についても、保険適用になる場合と自費(1回あたり数千円〜1万円程度)になる場合があるため、事前の確認が必要です。

〈公的助成制度〉

経済的な負担を和らげるために、活用できる公的助成制度もあります。

● 指定難病の医療費助成:指定難病と認定された場合、世帯所得に応じた月額の自己負担上限額が設定され、それ以上の医療費負担が軽減されます。6)

● 小児慢性特定疾病の医療費助成:自治体によって18歳未満(継続の場合は20歳未満)のお子さんが対象疾病に該当する場合、医療費の自己負担が軽減されます。7)

● 自治体による助成制度:自治体によっては、遺伝子変異があると診断された場合の定期検査や、家族が遺伝性のがんと診断された方が自身の検査を行う場合の費用を助成している場合があります。8)

費用や制度の適用範囲は自治体ごとに異なることもあります。検査を受ける前に、病院の「地域連携室」や「医療社会福祉窓口(ソーシャルワーカー)」に具体的な金額や使える制度について確認しておくと安心です。

遺伝学的検査の結果(バリアント)はどう見ればいい?「すぐに原因が特定できない場合」もある

検査結果には「原因となる変化が見つかった場合」だけでなく、「変化はあるが意味がまだ判明していない場合」「変化が見つからなかった場合」があり、結果だけで自己判断せず専門家と読み解くことが大切です。

遺伝学的検査を受けると、「病気の原因が100%はっきりとわかる」と思われがちです。しかし、現代の医学においても、結果の出方にはいくつかのパターンが存在します。

主な結果のパターンは以下の3つです。

● 病気の原因となる変化(病因性バリアント)が見つかった場合
症状やほかの検査結果などとあわせて、 病気の診断がつき、診断がつき、その遺伝学的子変化に合わせた治療や見通しの立案に進むことができます。

● 意味が判明していない変化(意義不明バリアント)が見つかった場合
遺伝子に変化自体は見られるものの、それが「病気の直接の原因なのか」それとも「単なる病気には関係しない変化なのか」が、現在の医学研究ではまだ判別できない状態です。

● 原因となる変化が見つからなかった場合
今回行った検査では、病気の原因と考えられる遺伝子の変化が見つからなかったという結果です。

また、「変化が見つからなかった=絶対にその病気ではない」とは言い切れないという点にも注意が必要です。まだ明らかになっていない遺伝子が関わっている可能性や、現在の検査技術では検出できない変化が存在する可能性もあります。
このように、遺伝学的検査には「必ずしも確定するわけではない」という不確実性が含まれることがあります。
だからこそ、検査結果の用紙だけを見て自分で判断してひとりで思い悩む必要はありません。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと一緒に、「この結果が自分の治療や生活にどう影響するのか」を丁寧に読み解いていくことが最も重要です。

結果が出たあとの相談先とサポート:ひとりで抱え込まず専門チームや地域とつながる

検査結果が出たあとは、主治医や遺伝カウンセラー、患者会、地域の福祉窓口などと協力しながら、これからの生活や療養の計画を安心して立てていくことができます。

遺伝学的検査の結果を聞いたあと、「これからどう生活していけばいいのだろう」「家族にどう伝えたらいいのだろう」と心が揺れるのは当然のことです。そのようなときは、一人で抱え込まずに周囲のサポートや地域のリソースを頼ってください。

次のような相談先やつながりの場が存在します。

● 遺伝カウンセリング外来:検査が終わった後も、心理的なケアやご家族への伝え方について継続して相談に乗ってくれます。

● 患者会・家族会(ピアサポート):同じ病気や似た経験を持つ当事者・ご家族とつながる場所です。ピアは仲間という意味で、お互いに助け合う仲間であるという考え方からきています。「同じ悩みを共有できた」「先輩患者さんの工夫が参考になった」という声も多く、孤独感を和らげる大きな支えになることがあります。

● 難病相談支援センター:各都道府県に設置されており、療養生活全般、就労、福祉サービスの利用について専門の相談員が対応します。9)

● 当財団ポータルサイト「かんしん広場」:各疾患の基礎知識や医療者のインタビュー、全国の患者会紹介、生活に役立つ社会保障制度の案内など、病気と共に生きるための情報とつながりを提供しています。

結果について不安や疑問がある場合は、主治医や遺伝医療の専門家、地域の相談窓口など、利用できる支援について相談してみましょう。

正しい情報を知り、あなたとご家族が納得できる選択を

遺伝学的検査は、生まれ持った身体の設計図を確認し、難病や希少疾患についてさらに知り、今後のケアに活かすためのものです。
しかし、これは「必ず受けなければならないもの」ではありません。ご自身やご家族が今後の人生をどう歩んでいきたいかという思いこそ尊重されるべきです。焦って答えを出す必要はありません。信頼できる主治医や遺伝カウンセラーと対話を重ね、費用や不確実性についても納得した上で、あなたにとって最善と思える道を選びましょう。

【免責事項】
本記事は一般的な医療および健康に関する情報提供を目的としており、医師や専門の医療従事者による個別の診断、治療、投薬の指示などに代わるものではありません。ご自身の治療方針や具体的な病状、遺伝学的検査の実施に関しては、必ず現在受診されている主治医や専門の医療機関にご相談ください。