難病の治験を、もっと身近な選択肢に。
患者さんが自ら情報を探せる社会を目指して
新しい薬が開発され、患者さんのもとに届くまでには、
さまざまな研究や検証が必要です。
その過程で重要な役割を担うのが「治験」です。
しかし、難病の患者さんやご家族にとって、
自分の病気に関する治験が行われていることを知る機会は、まだ十分とはいえません。
治験に関心があっても、情報をどこで探せばよいのかわからない。
主治医から紹介されなければ、参加を検討する機会そのものがない。
そんな課題があります。
こうした状況を変えるために取り組まれているのが、
難病の治験情報を患者さんやご家族が自ら検索できるウェブサイト
「難病治験ウェブ」です。
今回は、浜松医科大学病院 臨床研究センター 特任准教授の安井秀樹先生に、
これまでのご経歴や難病の医薬品開発に携わる中で感じてきた課題、
そして治験が患者さんや社会にとって持つ意味についてお話を伺いました。
1. 呼吸器内科医としての臨床経験から、医薬品開発の支援へ
2. 治験が行われていても、患者さんに情報が届かない
3. 治験は、新しい薬を患者さんに届けるための大切な過程
4. 治験は、選択肢の一つとして知っておいてほしい🔏
5. 患者さん自身が情報を探せる環境をつくりたい🔏
6. 前編のおわりに🔏

私は2003年に浜松医科大学を卒業し、
その後は呼吸器内科医として臨床の現場で働いてきました。
診療に携わる一方で、基礎実験や臨床研究にも取り組んできました。
2020年からの2年間は、厚生労働省に勤務しました。
研究開発振興課と難病対策課の両方で仕事をする機会があり、医薬品の研究開発や難病対策に関わる中で、難病の医薬品開発に強い関心を持つようになりました。
2022年に大学へ戻ってからは、呼吸器内科医としての診療や研究活動に加え、
医薬品開発や臨床研究を支援する業務にも携わっています。
診療では、間質性肺炎、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息などの呼吸器疾患を中心に担当しています。
また、厚生労働省の難治性疾患政策研究事業の研究班
(難病の克服に向けた研究推進と医療向上を図るための戦略的統括研究)でも活動しています。
特に力を入れているのは、治験情報を必要とする方々に届けやすくすること、
そして患者さんやご家族に難病制度や治験・臨床研究について理解を深めていただくことです。
診療の現場、研究、行政での経験を通じて、医薬品開発を進める側と、
実際にその恩恵を受ける患者さん側の双方から、課題を考えるようになりました。
大きく分けると、二つの課題があると感じています。
一つ目は、治験に関する情報が、患者さんや主治医に十分に届いていないことです。
患者さんが治験の存在を知るきっかけは、主治医からの紹介であることも多いと思います。
しかし、主治医がすべての治験情報を把握しているとは限りません。

例えば、ほかの医療機関で実施されている治験や、別の研究機関が進めている臨床研究について、
主治医が詳しい情報を知らない場合もあります。
がんの領域では、専門の医療機関を受診することで治験を紹介されるケースもありますが、
難病の場合は、患者さんが全国のさまざまな医療機関に分散していることもあり、
治験の情報を得る機会が限られがちです。
その結果、患者さんが治験に参加できる可能性があっても、その存在を知らないまま過ごしてしまうことがあります。
二つ目は、患者さんやご家族に、治験や臨床研究について正しく理解していただくことです。
治験と聞くと、「人体実験ではないか」「実験台にされてしまうのではないか」といった
不安を抱く方もいらっしゃると思います。
もちろん、治験にはリスクや負担があり、誰にとっても参加が適しているわけではありません。
新しい薬の有効性や安全性を確認し、将来の医療につなげていくために欠かせない過程でもあります。
治験について十分に知らないために、選択肢として考える前から遠ざけてしまうことは、
非常にもったいないと感じています。

治験は、開発中の薬について、人を対象として有効性や安全性などを確認し、
国から医薬品として承認を受け、
医療現場で使えるようにするための重要な過程です。
新しい薬の候補が見つかったからといって、すぐに患者さんが使えるわけではありません。
必要な研究や検証を重ね、その薬がどのような効果を持ち、どのようなリスクがあるのかを
確認していく必要があります。
難病の領域では、患者さんの数が少ない疾患も多く、治験に参加できる方を集めること自体が難しい場合があります。
そのため、治験を実施する研究者や製薬企業の努力だけでなく、患者さんやご家族に治験について
理解していただき、参加を検討できる環境を整えることも大切です。
また、日本で治験が実施され、必要なデータが得られることは、
日本の患者さんが新しい薬を使えるようになるためにも重要です。
近年は、海外で開発された薬が日本では開発・承認されず、患者さんが国内で使える見通しが立たない
「ドラッグ・ロス」が課題となっています。
難病の治験が日本で十分に実施されず、必要なデータが集まらない状況が続けば、
将来的に日本での医薬品開発が進みにくくなる可能性もあります。
もちろん、治験への参加だけで薬の承認が決まるわけではありません。
得られたデータをもとに、有効性や安全性などを慎重に評価する必要があります。
それでも、難病の医薬品開発を進め、将来の患者さんに新たな治療の可能性を届けるためには、
治験が行われていることを知り、参加できる方が適切に参加を検討できることが大切なのです。..................................