
治療の選択肢が増えることは、患者さんにとって大きな希望です。
一方で、選択肢が増えるほど、「どの治療を選べばよいのか」「自分に合う治療は何なのか」と迷うこともあります。
河内先生が大切にしているのは、患者さんが選択するために必要な情報を、きちんと届けることです。
「さまざまな選択肢があって、その選択肢を選ぶっていうことが可能な時代になってきています。複数の選択肢があるときにとても重要なことは、やはりさまざまな選択をするために必要な情報をきちんとした形で、患者さんにお届けすること。これがとても大切だなと思っています」
ただし、治療法をただ並べて説明するだけでは、患者さんにとって分かりやすいとは限りません。
「どういうふうな状況の時にこの治療がいいのか、どんな状況の時にこの治療がいいのか、そういうことを羅列されてもわからない場合がほとんどだと思います」
だからこそ、医師が日本や世界の治療の状況を把握し、そのうえで患者さんに分かりやすく伝えることが必要だといいます。
「日本も含めて、世界の情勢をつかんだ上で、最も適切な治療は何かということを、私の考えも含めながら、しっかりとお伝えしていくのが重要かと思います」
医学的な効果や安全性だけでなく、患者さんが大切にしていることや生活状況も含めて、その人に合う治療を一緒に考えていきたいという河内先生。
治療法がまだ十分に確立されていない病気の患者さんに対しても、希望を失わないように伝えることを大切にしています。
「治療法がいまだに開発されていない病気の患者さんもいらっしゃいますので、決して希望を失わないようにお話をすべきだと思っています」
今できる治療には限界があるかもしれません。
けれども、未来の医療は、今と同じとは限りません。
「今はこのようなことしかできないけれど、未来はまったく違うのだということを強く伝えたいです。希望を失わせるようなことは、決して言いたくないなと思っています」
治療について説明するとき、河内先生が大切にしているのは、何を伝えるかだけではありません。
「さまざまな情報を伝えるときには、タイミングって大切ですね」
患者さんやご家族がその時点で受け止められる形で、必要な情報を共有していくこと。
その積み重ねが、患者さんやご家族が納得して治療を考えることにつながっていきます。
治療の選択において、患者さんと医療者が一緒に考えることが大切です。近年は、シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)、つまり患者さんと医療者が情報を共有しながら、一緒に治療方針を考えていく考え方が重視されています。
河内先生は、患者さんこそが治療選択の主役だと話します。
「治療選択の主役は患者さんである、というのが、非常に重視されています」
ただし、患者さんが納得して治療を選ぶには、一度の説明だけでは十分ではありません。
「SDMを全うするにはですね、実はいろんな場面で、一回のインフォームド・コンセント(IC)では終わりません。さまざまな職種の方が、いろんな場面で、いろんなタイミングで複数回にわたり話をして、初めて患者さんは納得して治療を選択できるわけです」
医師、看護師、薬剤師、リハビリ職、医療ソーシャルワーカー、心理職など、さまざまな専門職が関わることで、患者さんの不安や迷いに寄り添いやすくなります。
「多職種連携協働の実現というのは、SDMの実現、患者さんの気持ちや患者さんの人生の中で治療を選択するということにつながっていくと思っています」
患者さんにとって、主治医にすべてを話さなければならないと思うと、負担に感じることもあります。
けれども、医療は医師だけで成り立つものではありません。チームの中に相談できる人がいることは、病気とともに生きるうえで大きな支えになります。
免疫性神経疾患とともに生活する患者さんにとって、治療だけでなく、学校や仕事、家庭生活をどう続けていくかも大きな課題です。
河内先生は、就学や就労について、一人ひとりの環境に応じた対応が必要だと話します。
「患者さんによって抱えている環境や課題はさまざまです」
学生であれば、学校生活、進学、体調に合わせた学び方が課題になることがあります。
働いている方であれば、仕事を続けるか、働き方を変えるか、職場にどこまで病気のことを伝えるかなどで悩むこともあります。
同じ病気であっても、患者さんの年齢、症状、家族構成、仕事や学校の環境によって、必要な支援は異なります。
そして、社会参加と同じくらい大切なのが、家族の理解です。
「社会参加も重要だけれども、もうひとつ大事なのは、やっぱり家族と患者さんご本人の関わりですね」
河内先生は、まず家族の中で患者さんが安心して過ごせることが大切だと話します。
「何よりも、家族の中で患者さんが幸せになるかが大事です。そのためには、家族がしっかりと患者さんを支える体制が必要だと感じています」
病気とともに生きることは、患者さん一人だけの問題ではありません。
家族が病気を理解し、支える体制をつくることで、患者さんが本人の望む形で、学校や仕事、社会との関わりを続けやすくなります。
一方で、ご家族も不安や負担を抱えることがあります。患者さんを支えるためには、ご家族自身も支えられることが大切です。
病気について知ること。
無理のない役割分担を考えること。
主治医や医療スタッフ、相談窓口に相談すること。
そうした一つひとつが、患者さんとご家族の暮らしを支える力になります。
最後に、河内先生から、免疫性神経疾患の患者さんとご家族へメッセージをいただきました。
河内先生が伝えたい言葉は、「お互い様」と「恩送り」です。
「恩送り」とは、誰かから受けた恩を、その人に直接返すだけでなく、別の誰かへつないでいくことです。
「すべての人間は、生まれ、亡くなります。これは生を受けた人間の宿命です」
今、病気と向き合っている患者さんがいます。
そのそばで支えているご家族や周囲の人がいます。
けれども、支える側と支えられる側は、いつも固定されているわけではありません。今は誰かを支えている人も、いつか別の場面では支えられる側になるかもしれません。
「今は患者さんを支援しているけれども、他のタイミングでは、患者さんから支援してもらうという逆の立場になる可能性もあるわけですね。お互い様なわけです」
病気は、誰にでも起こりうるものです。
だからこそ、支える側と支えられる側を固定せず、誰もが支え合う社会の中にいるという視点が大切です。
河内先生は、ご家族にも、患者さんの周りにいる人たちにも、この考え方を忘れないでほしいと話します。
「患者さんもそうですし、家族の方にもお話しするのですが、『お互い様』や、受けた恩を次の人へつなぐ『恩送り』という考えを忘れずに、家族を大切にしていただきたいなと思っています。患者さんの周りにいる同僚の人たちにも、同じことを伝えたいです」
治療の進歩は、患者さんの生活を支える大きな力になります。
しかし、病気とともに生きる日々を支えるのは、薬や検査だけではありません。
患者さんの人生に向き合う医療。
ご家族や周囲の理解。
多職種のチームによる支え。
そして、「お互い様」「恩送り」という、人と人とのつながり。
免疫性神経疾患とともに生きる患者さんとご家族が、一人で抱え込まず、自分らしい暮らしを続けていけるように。
河内先生のお話には、医療の進歩だけでなく、人として支え合うことの大切さが込められていました。