筋ジストロフィーは、一つの病気の名前ではなく、筋肉をつくり、その働きを保つために必要な遺伝子の変化によって、筋肉が壊れやすくなり、筋力の低下などが現れる遺伝性の病気の総称です。
私たちが歩く、立ち上がる、物を持つ、呼吸するといった動作には、筋肉の働きが欠かせません。筋肉は多数の筋線維(※1)からできており、日常の動作の中で負担を受けながら、傷ついた部分を修復しています。
筋ジストロフィーでは、筋線維を安定させたり、正常な状態に保ったりするタンパク質が十分につくられないなどの理由によって、筋線維が変性(※2)し、壊れやすくなります。その結果、筋力の低下や、筋肉がやせる「筋萎縮」が少しずつ進み、日常生活のさまざまな動作に影響が現れます。
※1筋線維とは、筋肉をつくっている細長い細胞のことです。たくさんの筋線維が束になって、一つの筋肉をつくっています。
※2変性とは、細胞や組織が傷つき、本来の形や働きを保てなくなることです。
監修:国立精神・神経医療研究センター/ TMC(トランスレーショナル・メディカルセンター)センター長、
病院臨床研究・教育研修部門長、脳神経小児科診療部長、筋疾患センター長 小牧 宏文 先生
筋力低下は、必ずしも「筋肉に力が入らない」と、はっきり自覚されるとは限りません。
子どもの場合は、歩き始めが遅い、よく転ぶ、走ることやジャンプが苦手、階段を上りにくいなどの様子から気づかれることがあります。
成人の場合は、椅子や床から立ち上がりにくい、階段や坂道がつらい、腕が上がりにくい、以前より歩く速度が遅くなったなど、日常動作の変化として現れることがあります。
次のような変化も、筋力低下の表れである場合があります。
・立ち上がるときに机や膝へ手をつくようになった
・階段で手すりを使うことが増えた
・洗髪や着替えに時間がかかるようになった
・高い場所に手が届きにくくなった
・長い距離を歩くと休憩が必要になった
・以前より転ぶことが増えた
筋ジストロフィーと似た筋力低下は、神経、筋肉、神経と筋肉のつなぎ目などに関係する別の病気でも現れます。症状だけで病名を判断することはできないため、気になる変化が続く場合は医療機関へ相談することが大切です。
筋ジストロフィーには多くの病型があり、症状が現れる年齢、筋力が低下しやすい部位、症状の進み方、起こりやすい合併症が異なります。
出生直後や乳幼児期から症状がみられる病型もあれば、学童期、思春期、成人期以降に初めて気づかれる病型もあります。
同じ病型であっても、症状の程度や進み方には個人差があります。そのため、病名だけから将来の状態を決めつけることはできません。
筋ジストロフィーは、時間の経過とともに筋力低下が進む「進行性」の病気として説明されます。ただし、「進行性」とは、すべての患者さんが同じ速さで変化するという意味ではありません。
比較的短い期間で動作が変化する場合もあれば、長い期間にわたり状態が大きく変わらない場合もあります。同じ人でも、成長期、体重の変化、けが、手術、感染症、生活環境などによって、一時的に動作が難しくなることがあります。
定期的な評価を受けながら、その時点の状態に合った医療や支援を検討することが大切です。
一般に「筋肉」という言葉から、腕や脚の筋肉を思い浮かべることが多いかもしれません。
自分の意思で動かす腕、脚、体幹などの筋肉は「骨格筋」と呼ばれます。筋ジストロフィーでは主に骨格筋の筋力低下がみられますが、病型によって影響する筋肉や部位は異なります。
心臓を動かしている心筋に影響する病型では、心筋症や不整脈が生じることがあります。
呼吸では、横隔膜や胸郭の周囲にある筋肉が使われています。これらの筋力が低下すると、十分に息を吸うことや、せきをして痰を出すことが難しくなる場合があります。
食事の際には、口、舌、喉などの筋肉が協力して、食べ物をかみ、飲み込んでいます。これらの筋肉に影響すると、食事に時間がかかる、むせる、食べ物が喉につかえるといった症状につながります。
病型によっては、関節の動く範囲が狭くなる「拘縮(こうしゅく)」や、背骨が曲がる「側弯(そくわん)」などを伴うこともあります。
また、筋強直性ジストロフィーのように、目、内分泌・代謝、消化管、睡眠など、全身にさまざまな症状が現れる病型もあります。生命予後に影響する症状としては、呼吸不全、心不全、不整脈、嚥下障害などが挙げられており、定期的な機能評価と合併症の確認が重要です。
このように、筋ジストロフィーの診療では、筋力や歩行能力だけでなく、心臓、呼吸、飲み込み、栄養、骨や関節などを継続的に確認します。
筋ジストロフィーでは、病型や症状に応じて、薬物療法、リハビリテーション、呼吸管理、心機能管理などが行われます。また、飲み込みや栄養、関節や姿勢などについても、状態に応じたケアが行われます。
近年では、一部の病型で、原因となる遺伝子の変化に応じた治療も利用できるようになっています。治療の選択肢は病型や遺伝子の変化、症状などによって異なるため、主治医と相談しながら、その人の状態に合った治療やケアを検討していきます。
治療や日常生活でのケアについては、別のコラムで詳しく紹介します。
遺伝子は、体をつくり、働かせるための情報を持っています。
筋ジストロフィーでは、筋肉の働きに関係する遺伝子に変化があることで、必要なタンパク質が十分につくられない、または正常に働かないことがあります。
遺伝の仕方は、病型によって異なります。
例えば、デュシェンヌ型とベッカー型は、X染色体上にあるジストロフィン遺伝子の変化によって起こります。顔面肩甲上腕型や筋強直性ジストロフィーでは、親から子へ遺伝する可能性がある病型があります。肢帯型には複数の遺伝形式が含まれます。
ただし、筋ジストロフィーは遺伝子の変化によって起こりますが、家族や親族に同じ病気の人がいない場合もあります。
本人に新たな遺伝子の変化が生じる場合や、家族が症状のない保因者である場合などがあるため、家族歴がないことだけで筋ジストロフィーを否定することはできません。
また、「遺伝性の病気」という説明から、患者さんやご家族がご自身を責めてしまうことがありますが、遺伝子の変化は本人や家族の生活習慣、育て方、行動によって起こるものではありません。
本人や家族への影響について詳しく知りたい場合は、主治医や遺伝カウンセリングの担当者に相談します。遺伝カウンセリングでは、筋ジストロフィーを含む遺伝性の神経・筋疾患について、専門的な情報提供や相談支援が行われています。
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