2026/09/02公開

「かんしん広場」の慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)広場では以前、画家として活動する古山拓さんに、CIDPとともに暮らしながら絵を描き続ける日々についてお話を伺いました。
しびれと痛みの中でも、描き続ける
CIDPと向き合う画家・イラストレーター 古山拓さんインタビュー
https://www.kanshin-hiroba.jp/interview-furuyama-CIDP-top
古山さんから個展開催のお声がけをいただき、2026年8月某日、大丸東京店の美術画廊を訪ねました。
「古山 拓 展 ~旅路巡りて~」(大丸東京店)
https://shopblog.dmdepart.jp/tokyo/detail/?cd=028526&scd=000208
会場に足を踏み入れると、そこには日本や世界各地の風景を描いた作品が並んでいました。
建物や街並み、遠くまで広がる空。繊細なタッチで描かれた情景からは、その土地の空気や光まで伝わってくるようです。
一方で、作品を一つひとつ見ていくと、使われている画材も、筆づかいも、表現方法もさまざまです。
そこには、CIDPの症状と付き合いながらも、「描くことをやめない」ために工夫を重ねてきた古山さんの歩みがありました。

以前のインタビューで古山さんは、CIDPの症状が現れたことで、これまでと同じように絵を描くことが難しくなった時期があったと話してくれました。
今回の個展では、実際の作品を前にしながら、その頃にどのように描き方を模索していたのかを改めて伺うことができました。
手の震えがあるときには、細かな線を描こうとするのではなく、太い筆を使う。
そして、そのときの身体の状態に合わせながら、水彩だけでなく、アクリル絵の具なども使い分けていく。
症状に合わせて、「描けない」とあきらめるのではなく、「今の自分なら、どう描けるのか」を考えてきたといいます。
太い筆で描いた作品について説明してくださったとき、古山さんは、
「太い筆で描くときは、迷うことなく、一気に描くんです」
と穏やかに話してくれました。
細かな描写を重ねてつくり上げる作品とは、また違う表現です。
身体の状態に合わせて画材や描き方を変えることが、結果として新しい作品の表情にもつながっているように感じました。


会場には、古山さんが旅先などで目にした日本や世界のさまざまな情景が描かれていました。
その中でも印象に残ったのが、モンサンミッシェルを描いた作品です。
幻想的な色彩で描かれた空は、見る人によって、朝日のようにも、夕日のようにも感じられます。
「これは朝なのだろうか。それとも夕方なのだろうか」
作品を眺めながら自然と想像が広がります。
そこには、目の前にある景色をそのまま写し取るだけではない、古山さん自身が感じたものや、心の中に浮かんだ情景が重ねられているようでした。
また、風景とは異なり、色彩そのものから古山さんの心象を感じさせる作品もあります。
キャンバスの上に広がる色の重なりを見ていると、具体的な風景が描かれていなくても、見る側にそれぞれの情景や感情が浮かんできます。
繊細な線で描かれた作品。
太い筆で一気に描かれた作品。
水彩の透明感を生かした作品。
アクリル絵の具で表現された作品。
一つの描き方にこだわるのではなく、そのときの身体の状態や表現したいものに合わせて方法を変えていくことも、古山さんが描き続けるための大切な工夫なのだと感じました。
古山さんに作品についてお話を伺っている間にも、個展を訪れる人が絶えることはありませんでした。
作品をじっくり眺める人。
古山さんと楽しそうに言葉を交わす人。
中には、関東に来る機会があると、古山さんの個展へ足を運んでくださる方もいるそうです。
そうしたつながりについて伺うと、古山さんご夫妻は「ご縁なんです」と話します。
個展を開くきっかけも、思いがけない出会いから生まれることがあるそうです。
たまたま知り合った方から「個展を開いてみないか」と声をかけてもらったり、そこから新しい機会につながったり。
今回の大丸東京店での個展も、画商の方からの提案をきっかけに実現したといいます。
作品を描くことだけでなく、その作品を通して人と出会い、その出会いがまた次の機会へつながっていく。
古山さんご夫妻のお話からは、これまで積み重ねてきた人とのつながりを、とても大切にされていることが伝わってきました。
お二人とも終始穏やかな口調と表情で、一つひとつの作品やこれまでの出来事について、ゆっくりと話してくださいました。



病気になることで、それまで当たり前にできていたことが難しくなることがあります。
古山さんにとっても、CIDPの症状は絵を描くことに影響しました。
けれど、今回作品を見ながらお話を伺って感じたのは、以前とまったく同じやり方に戻ることだけが、「続ける」ということではないということです。
手が震えるなら、太い筆を使う。
細かな表現が難しいときには、違う画材や描き方を試してみる。
そのときの自分の身体に合わせて方法を変えながら、それでも描くことはやめない。
そうして生まれた作品もまた、古山さんの大切な表現の一つになっています。
病気との向き合い方や、生活の中で大切にしたいものは、一人ひとり違います。
古山さんの歩みも、誰にでもそのまま当てはまるものではありません。
それでも、「できなくなったこと」だけを見るのではなく、「今の自分にできる方法」を探しながら、自分が大切にしてきたことを続けていく。
今回の個展で出会った作品と古山さんの言葉から、難病とともに生きる一つの姿を見せていただいたように感じました。
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