筋ジストロフィーの遺伝学的検査でわかることを解説

筋ジストロフィーの診断で「遺伝子を調べてみましょう」と医師から説明を受け、戸惑う方は少なくありません。「なぜ遺伝子を調べるの?」「結果がわかると、治療や生活はどう変わるの?」と不安になることもあるでしょう。


遺伝学的検査は、筋ジストロフィーの原因となる遺伝子の変化を調べ、病型の診断や治療方針、今後の健康管理に役立てるための検査です。一方で、検査を受ければ病気に関するすべてが明らかになるわけではありません。


大切なのは、検査で何がわかり、何がわからないのかをあらかじめ知っておくことです。


この記事では、筋ジストロフィーの遺伝学的検査について、検査でわかること・わからないことや検査の流れ、結果の受け止め方などを、できるだけわかりやすく解説します。


遺伝学的検査を受ける前には、検査の目的や結果が本人・家族にどのような影響を与える可能性があるのか、予期していなかった所見(偶発的所見)が見つかる可能性などについて、遺伝カウンセリング等で説明を受けます。そのうえで、内容を理解し、本人が同意してから検査を進めます。


監修:国立精神・神経医療研究センター/ TMC(トランスレーショナル・メディカルセンター)センター長、

病院臨床研究・教育研修部門長、脳神経小児科診療部長、筋疾患センター長 小牧 宏文 先生


目次

1.筋ジストロフィーで遺伝子を調べる理由

1-1.遺伝学的検査でわかること

遺伝学的検査では、筋ジストロフィーの原因と考えられる遺伝子の変化を調べます。

主にわかるのは、次のようなことです。


●原因と考えられる遺伝子

●遺伝子変化の場所や種類

●病型を判断する手がかり


原因や病型がわかると、必要な検査や治療、今後の健康管理を考えやすくなります。

病型によっては遺伝子の変化に合わせた治療が存在するため、それらが使えるかどうかを調べるためにも重要です。

1-2.遺伝学的検査ではわからないこと

検査を受けても、必ず原因が見つかるわけではありません。

また、遺伝学的検査だけでは、次のことを正確に知ることはできません。


●陰性だから筋ジストロフィーではない、と決めること

●何歳で症状が出るか

●どのくらいの速さで進行するか


遺伝学的検査は、現在の進行状況や将来を正確に予測するための検査ではありません。診察やほかの検査と合わせて考えます。

1-2-1.遺伝学的検査で「陰性」と言われたら?

「陰性」は、「筋ジストロフィーではない」という意味ではありません。今回の検査で調べた範囲では、原因と考えられる遺伝子変化が見つからなかった、という意味です。

筋ジストロフィーが強く疑われる場合は、別の検査を行ったり、経過を見ながら診断を続けたりすることがあります。

気になる場合は、「ほかに必要な検査はありますか」と主治医に確認してみましょう。

1-2-2.意味がまだわからない変化もある(VUS)

遺伝子の変化が見つかっても、それが病気の原因かどうか、まだわからないことがあります。これを「意義不明のバリアント(VUS)」といいます。


遺伝子には、もともと一人ひとり違いがあります。そのため、変化が見つかったからといって、すべてが病気の原因とは限りません。

VUSだけで病気を確定したり、治療を決めたりすることは基本的にありません。

研究が進むことで、あとから意味がわかる場合もあります。VUSが見つかったときは、今後結果を見直す必要があるか、主治医に確認しておくとよいでしょう。

2.病型はどうやって決まる?

筋ジストロフィーは、病型によって原因となる遺伝子や変化の特徴が異なります。そのため、疑われる病型に合わせて検査方法を選びます。

ここでは、代表的な病型について見ていきましょう。

2-1.デュシェンヌ型とベッカー型(DMD、BMD)では欠失や重複などを調べる

DMDとBMDは、「DMD遺伝子」の変化が原因です。

まず、遺伝子の一部が抜ける「欠失(けっしつ)」や、一部が増える「重複(ちょうふく)」を調べます。


●MLPA法:主に大きな欠失や重複を調べる

※MLPA法などで単一エクソン(遺伝子の情報を構成する一つの区切り)の欠失が認められた場合は、微小変異による見かけ上の欠失との鑑別のため、シークエンス解析などで確認が必要になることがあります。

●シークエンス解析:より細かな遺伝子変化を調べる


多くの場合、採血した血液で検査できます。

2-2.筋強直性ジストロフィー(DM1)では繰り返し配列を調べる

筋強直性ジストロフィー1型(DM1)では、「DMPK遺伝子」にあるCTGという配列が、通常より多く繰り返されていないかを調べます。

繰り返しの長さと症状にはある程度の関係がありますが、個人差があります。そのため、検査結果だけで症状の重さや将来の経過を正確に予測することはできません。

また日本ではとてもまれですが、「筋強直性ジストロフィー2型(DM2)」という病気もあります。これはDMPK遺伝子ではなく、「CNBP遺伝子」の異常を調べて診断します。

DM2は、筋肉のこわばりがあまり目立たず、肩や腰まわりの筋肉から弱くなることがあります。そのため、ほかの筋ジストロフィーと区別しにくく、診断まで時間がかかる場合があります。

2-1.デュシェンヌ型とベッカー型(DMD、BMD)では欠失や重複などを調べる

筋ジストロフィーは、病型によって原因となる遺伝子や変化の特徴が異なります。そのため、疑われる病型に合わせて検査方法を選びます。

ここでは、代表的な病型について見ていきましょう。

2-3.顔面肩甲上腕型(FSHD)は特別な検査で染色体を調べる

FSHDは、一般的な遺伝子パネル検査だけでは診断できないことがあります。

代表的なFSHD1では、4番染色体にある「D4Z4」という部分を特別な方法で調べます。

FSHDには別の仕組みで起こるタイプもあるため、症状に合わせて専門医が必要な検査を選びます。

2-4.肢帯型(LGMD)や先天性は複数遺伝子をまとめて確かめる

LGMDや先天性筋ジストロフィーには、多くの原因遺伝子があります。

そのため、複数の遺伝子をまとめて調べる「遺伝子パネル検査」が使われることがあります。

それでも原因がわからない場合は、症状やこれまでの検査結果に合わせて、さらに広い範囲を調べることもあります。

2-5.遺伝学的検査だけで診断は決まらない

筋ジストロフィーは、遺伝学的検査の結果だけで診断するわけではありません。症状や診察、ほかの検査も合わせて判断します。

必要に応じて、次のような検査を行います。


●血液検査:CKなど、筋肉の障害を示す値を調べる

●筋電図検査:筋肉の電気的な動きを調べる

●画像検査:MRIなどで筋肉の状態を見る

●筋生検:筋肉の一部を取って詳しく調べる


すべての患者さんが、すべての検査を受けるわけではありません。疑われる病型や症状、体への負担を考えながら、必要な検査が選択されます。

3.検査結果は治療に役立つ?

遺伝学的検査の結果は、診断だけでなく、治療を考えるときにも役立ちます。

病型によっては、遺伝子の変化を詳しく調べることで、使える薬や参加できる治験を検討する手がかりになります。

3-1.どんな薬が使えるかがわかる(エクソンスキッピング)

DMDでは、遺伝子変化の場所によって「エクソンスキッピング」という治療の対象になることがあります。

これは、遺伝子の一部を読み飛ばすことで、短くても働くジストロフィンをつくらせることを目指す治療です。薬によって読み飛ばす場所が決まっているため、遺伝学的検査で遺伝子変化の場所を確認する必要があります。

ただし、遺伝子の条件が合っていても、必ず治療を受けられるとは限りません。年齢や体の状態なども含めて、専門医が判断します。

3-2.治験や新しい治療を考えるときの助けになる

治験では、特定の遺伝子変化があることを参加条件にしている場合があります。

そのほかにも、次のような条件があります。


●遺伝子変化の種類

●年齢や運動機能

●これまで受けてきた治療

●治験を行う施設に通えるか


条件は治験ごとに異なります。

また、国内には筋ジストロフィーなどを対象とした患者登録システム「Remudy」があります。対象となる場合は、登録によって研究や治験に関する情報を得られることがあります。

気になる場合は、主治医や専門の医療機関に相談してみましょう。

4.家族や子どもにも関係する?

筋ジストロフィーは、病型によって家族への伝わり方が異なります。また、遺伝子の変化は、だれかの責任で起こるものではありません。

親から受けつぐ場合もあれば、そのお子さんで新しく起こる場合もあります。まずは、基本的な伝わり方を見ていきましょう。

4-1.伝わり方は病型ごとに違う

主な遺伝のしかたには、次の3つがあります。


●X連鎖(れんさ):X染色体にある遺伝子の変化が関係する

●常染色体顕性遺伝(じょうせんしょくたい-けんせいいでん):一対の遺伝子のうち、片方に変化があると発症することがある

●常染色体潜性遺伝(じょうせんしょくたい-せんせいいでん):一対の遺伝子の両方に変化があると発症することがある


デュシェンヌ型・ベッカー型はX連鎖、筋強直性ジストロフィーや顔面肩甲上腕型の多くは常染色体顕性遺伝です。肢帯型には、常染色体潜性遺伝などさまざまなタイプがあります。

同じ家族でも、症状の出方や重さには違いがあります。

4-2.母や姉妹が保因者と言われたとき(DMD、BMD)

デュシェンヌ型・ベッカー型では、DMD遺伝子の変化をもつ女性を「保因者」と呼ぶことがあります。

保因者でも、必ず症状がないとは限りません。筋力の低下や疲れやすさがみられる方もいます。

特に注意したいのが心臓です。筋肉の症状がなくても、心臓の筋肉が弱くなる「心筋症」が起こることがあります。

そのため、保因者とわかった場合は、症状がなくても定期的な心臓の検査について主治医に相談することが大切です。

4-3.家族も検査を受けるか迷ったら

家族全員が遺伝学的検査を受けなければならないわけではありません。

検査を受けるかどうかは、「何のために調べるのか」「結果がわかったあとに何が変わるのか」を考えて決めます。たとえば、心臓などの健康管理に役立つ場合は、検査を受ける意味が大きくなることがあります。

未成年の方では、検査結果がその時点での健康管理や治療に役立つかどうかを考え、検査を急がず本人の意思や将来の自己決定にも配慮して判断します。迷ったときは、主治医や遺伝医療の専門家に相談しましょう。


5.ひとりで悩まず遺伝カウンセリングへ

遺伝学的検査の結果は、診断だけでなく、治療を考えるときにも役立ちます。

病型によっては、遺伝子の変化を詳しく調べることで、使える薬や参加できる治験を検討する手がかりになります。

5-1.検査を受ける前も後も相談できる

たとえば、次のようなことを相談できます。


●検査を受けるか迷っている

●結果をどう受け止めればよいかわからない

●家族にどう伝えるか悩んでいる


臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーなどが、医学的な情報を整理しながら一緒に考えてくれます。

わからないことや迷っていることを、そのまま話して大丈夫です。

5-2.どこで受ける?いくらかかる?

遺伝カウンセリングは、遺伝医療の専門部門がある医療機関などで受けられます。まずは主治医に相談し、必要に応じて紹介してもらいましょう。


カウンセリングでは、遺伝や検査について説明を受けながら、検査を受けるかどうかや、結果をどう受け止めるかを相談できます。

費用や保険が使えるかどうかは、医療機関や相談内容によって異なります。検査を受ける場合は、検査費用も別にかかることがあります。


また、通常の診療で原因がわからない場合には、主治医を通じて、未診断疾患を調べる「IRUD」などの研究につながることもあります。


5-3.近くで相談できる場所を探す

遺伝カウンセリングを受けたいときは、まず主治医に相談しましょう。必要に応じて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーがいる医療機関を紹介してもらえます。

自分で探す場合は、遺伝医療を行っている大学病院や専門医療機関などを確認する方法もあります。

どこに相談すればよいかわからない場合は、主治医に「遺伝カウンセリングを受けたい」と伝えるとスムーズです。

6.よくある質問

遺伝学的検査について、よくある質問をまとめました。

6-1.検査について

Q.筋ジストロフィー遺伝学的検査は保険が使えますか?

筋ジストロフィーの原因を調べる遺伝学的検査には、健康保険が使えるものがあります。たとえば、DMD遺伝子検査やDMPK遺伝子解析などです。

また、2026年度からは、難病に関する遺伝学的検査などについて、検査前の説明や検査結果に基づく療養上の指導を評価する「遺伝性疾患療養指導管理料」が新しく設けられました。

さらに、難病に関する検査では、一定の要件を満たす場合、情報通信機器を使って他の医療機関の医師と連携して、こうした説明や指導を行う仕組みも設けられています。

保険適用の範囲や自己負担額は、検査の種類、医療機関、診療状況などによって異なります。詳しくは、検査を受ける医療機関に確認してください。


Q.検査結果が出るまでどれくらいかかりますか?

検査方法や施設によって異なります。数週間から数か月かかることもあります。

検査を受けるときに、結果が出る時期の目安を確認しておくと安心です。


Q.遺伝学的検査で陰性なら筋ジストロフィーではないと言えますか?

いいえ。

陰性でも、筋ジストロフィーではないとは言い切れません。

「今回調べた範囲では、原因となる遺伝子変化が見つからなかった」という意味です。必要に応じて、別の検査を行うこともあります。


6-2.家族への影響について

Q.家族も検査を受けたほうがよいですか?

必ず受ける必要があるわけではありません。

家族の健康管理に役立つ場合もあれば、すぐに調べなくてもよい場合もあります。検査の目的や本人の気持ちを大切にしながら考えます。


Q.子どもへ遺伝する確率はどれくらいですか?

病型や遺伝のしかたによって異なります。そのため、すべての筋ジストロフィーに共通する確率はありません。

自分や家族の場合について知りたいときは、遺伝カウンセリングで相談できます。


6-3.相談・治療について

Q.遺伝カウンセリングはどこで受けられますか?

まずは主治医に相談してみましょう。

必要に応じて、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーがいる医療機関を紹介してもらえます。


Q.検査結果は治療や治験に役立ちますか?

役立つことがあります。

病型によっては、遺伝子変化の種類が、治療薬や治験の対象になるかを判断する手がかりになります。患者登録から、研究や治験の情報を得られる場合もあります。

7.【まとめ】検査でわかることとわからないこと

遺伝学的検査は、筋ジストロフィーの原因や病型を知り、これからの検査や治療を考えるための大切な手がかりです。病型によっては、使える薬や治験につながることもあります。


ただし、検査ですべてがわかるわけではありません。

原因となる遺伝子変化が見つからないこともあり、将来の症状や進み方を正確に予測することもできません。


重要なのは、結果だけで判断しないことです。「何がわかったのか」「次に何をすればよいのか」を、一つずつ確認することこそが検査を受ける意味となります。

そして本当に大切なのは結果を知ることではなく、その後の治療や健康管理につなげていくことです。不安なことがあれば、ひとりで抱え込まず、主治医や専門家に相談しながら一つずつ進めていきましょう。


8.参考文献

1) 難病情報センター. "筋ジストロフィー 指定難病113". 難病情報センター. 2026.

2) 厚生労働省. "113 筋ジストロフィー 概要・診断基準等". 厚生労働省. 

3) 難病情報センター. "筋ジストロフィー病型・病名一覧表". 難病情報センター. 2026.

4) 日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会. "医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン". 日本医学会. 2022.

5) 日本医学会. "医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン Q&A". 日本医学会. 2022. 

6) 日本人類遺伝学会. "遺伝学的検査に関するガイドライン". 日本人類遺伝学会. 

7) 日本小児科学会. "医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン Q and A". 日本小児科学会. 2024.

8) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 筋ジストロフィーの標準的医療普及のための調査研究班. "筋ジストロフィーの病型診断を進めるための手引き 第1.1版". MD Clinical Station for Doctors. 

9) 同研究班. "ジストロフィノパチー診断手順". MD Clinical Station for Doctors. 

10) 同研究班. "顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー診断手順". MD Clinical Station for Doctors. 

11) 同研究班. "病型と治療". MD Clinical Station. 

12) 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第一部. "顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの遺伝学的診断". 国立精神・神経医療研究センター. 

13) 日本神経学会監修 筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン作成委員会編. "筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン2020". 南江堂. 2020. 

14) 日本神経学会 日本小児神経学会 国立精神・神経医療研究センター監修. "デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014". 南江堂. 2014. 

15) 国立精神・神経医療研究センター. "新しく診断を受けた患者さん、家族へ". 神経筋疾患ポータルサイト. 

16) 国立精神・神経医療研究センター. "FSHD 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー". 神経筋疾患ポータルサイト. 

17) 国立精神・神経医療研究センター. "神経・筋疾患患者登録サイト Remudy". 国立精神・神経医療研究センター. 

18) 日本医療研究開発機構. "未診断疾患イニシアチブ IRUD". 日本医療研究開発機構. 

19) 未診断疾患イニシアチブ コーディネーティングセンター. "未診断疾患イニシアチブ IRUD". IRUD. 

20) 難病情報センター. "難病の医療提供体制". 難病情報センター.

21) 厚生労働省. "難病対策". 厚生労働省. 


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