筋ジストロフィー 診断までの検査の流れ

筋ジストロフィーの診断では、一つの検査結果だけで判断するのではなく、症状が始まった時期や経過、身体診察、血液検査、遺伝学的検査などを組み合わせて判断します。

疑われる病型や患者さんの年齢、症状によって、必要な検査や順番は異なります。

すべての患者さんが、ここで紹介する検査をすべて受けるわけではありません。


監修:国立精神・神経医療研究センター/ TMC(トランスレーショナル・メディカルセンター)センター長、

病院臨床研究・教育研修部門長、脳神経小児科診療部長、筋疾患センター長 小牧 宏文 先生


目次

1.問診

最初に、どのような症状が、いつ頃から現れたかを確認します。

子どもの場合は、首のすわり、寝返り、お座り、歩き始めなどの時期、走る、跳ぶ、階段を上るなどの運動について聞かれます。


妊娠中や出産時の経過、乳児期の哺乳、呼吸、体重の増え方などを確認する場合もあります。

成人の場合は、歩行、階段、立ち上がり、腕を上げる、物を持つなどの動作が、以前と比べてどのように変化したかを確認します。


筋力低下以外に、次のような症状がないかも聞かれます。

・息苦しさ

・横になったときの呼吸のしづらさ

・日中の眠気や朝の頭痛

・動悸、めまい、失神

・食べ物の飲み込みにくさ

・むせ

・まぶたの下がり

・手を握ったあとに開きにくい症状

・筋肉痛やこむら返り

家族や親族に、筋ジストロフィー、筋力低下、歩行障害、心筋症、不整脈、若年での突然死などがあるかも確認します。

ただし、家族歴がなくても筋ジストロフィーの可能性はあります。


2.身体診察・神経学的診察

医師が、筋力、筋肉の大きさ、歩き方、姿勢、関節の動き、反射、感覚などを診察します。

どの筋肉が弱くなっているかは、病型を考える重要な手がかりです。

腰や太ももなど体の中心に近い筋肉が弱いのか、手足の先の筋肉が弱いのか、顔の筋肉に症状があるのか、左右差があるのかなどを確認します。


診察では、次のような動作を行う場合があります。

・椅子から立ち上がる

・床から立ち上がる

・一定の距離を歩く

・つま先やかかとで歩く

・腕を前や横へ上げる

・手を握る、開く

・目を強く閉じる

・頬を膨らませる

関節拘縮、側弯、翼状肩甲、ふくらはぎの仮性肥大などの有無も確認します。

診断後にも同じ方法で定期的に評価することで、症状の変化やリハビリテーションの効果などを確認できます。


3.血液検査

筋ジストロフィーが疑われる場合、血液検査でCKを確認します。

CKは筋肉の細胞に多く含まれる酵素で、筋肉が傷つくと血液中の値が上昇します。

デュシェンヌ型やベッカー型では、症状がはっきり現れる前からCKが大きく上昇することがあります。一方、病型や病気の時期によっては、CKの上昇が軽い場合もあります。

AST、ALT、LDHなども筋肉の障害によって上昇することがあります。

ASTやALTが高い場合、肝臓の病気だけでなく、筋肉から出ている可能性を確認するためにCKを測定することがあります。

CKは、激しい運動、転倒、筋肉への注射、けが、ほかの筋疾患などでも上昇します。また、正常値は年齢や性別、検査機関によって異なります。

そのため、CKが高いことだけで筋ジストロフィーと診断することはできません。

必要に応じて、腎機能、電解質、甲状腺機能など、筋力低下の別の原因を調べる検査も行います。


4.遺伝学的検査

症状や診察、血液検査などから筋ジストロフィーが疑われる場合は、血液などを用いて、原因となる遺伝子の変化を調べます。


筋ジストロフィーには多くの病型があり、原因となる遺伝子もさまざまです。遺伝学的検査によって原因となる遺伝子の変化を確認することは、病型を正確に診断するだけでなく、その病気の特徴や、今後注意したい症状・合併症を理解するうえでも重要です。


デュシェンヌ型、ベッカー型、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)など、原因となる遺伝子の変化や遺伝学的な特徴が知られている病型では、それぞれの病型に応じた遺伝学的検査を行います。

肢帯型筋ジストロフィーのように、多くの原因遺伝子が関係する場合は、複数の遺伝子をまとめて調べる検査が検討されることがあります。


遺伝学的検査によって病型や原因となる遺伝子の変化が分かると、次のような点を考えるための情報になります。


・どのような症状や合併症に注意する必要があるか

・どのような定期検査が必要か

・治療の選択を検討する際に必要な情報

・治験や新しい治療に関する情報を理解・検討するための手がかり

・家族や血縁者への影響

・今後の妊娠や出産について相談する場合の情報


近年は、筋ジストロフィーの原因となる遺伝子や病気の仕組みに基づいた治療法の研究・開発が進んでおり、一部の病型では、遺伝子の変化によって治療の対象となるかどうかが異なる場合があります。そのため、遺伝学的検査は診断だけでなく、治療や新しい治療法について理解するうえでも重要になっています。


ただし、検査をしても原因となる遺伝子の変化が見つからない場合があります。また、遺伝子の変化が見つかっても、病気との関係がはっきりしない場合があります。その場合は、症状、家族歴、ほかの検査結果などを合わせて判断します。


遺伝学的検査の結果は、検査を受けた本人だけでなく、血縁のある家族にも関係する可能性があります。そのため、検査の前後に、検査で分かることと分からないこと、結果が本人や家族に与える可能性のある影響について説明を受けます。必要に応じて遺伝カウンセリングを利用します。


遺伝カウンセリングは、検査を受けるよう勧めたり、特定の選択へ誘導したりする場ではありません。患者さんやご家族が必要な情報を理解し、ご自身の考えに沿って選択できるよう支援するための相談です。

5.筋電図検査

症状によっては、筋肉や神経の電気的な働きを調べる筋電図検査を行います。

筋電図では、筋力低下が筋肉そのものの障害によって起きているのか、筋肉を動かす神経の障害によって起きているのかを検討します。

細い針を筋肉へ刺して電気活動を記録する針筋電図や、皮膚の上から電気刺激を行って神経の伝わり方を調べる神経伝導検査などがあります。

すべての患者さんに必要な検査ではなく、症状やほかの検査結果に応じて行われます。

6.筋肉MRI・超音波検査

筋肉MRIや超音波検査によって、筋肉の状態や、変化が現れている部位を確認することがあります。

筋肉MRIでは、筋肉が脂肪などに置き換わっている状態や、どの筋肉に変化が強いかを画像で確認します。

病型によって、筋肉の変化の分布に特徴がある場合があり、診断を考える手がかりになります。

超音波検査は、体への負担が比較的少なく、筋肉の厚さや性状を確認できます。

これらの画像検査だけで病型を確定することはできませんが、遺伝学的検査の対象を検討したり、筋生検を行う部位を決めたりする際の参考になることがあります。

7.筋生検

遺伝学的検査だけでは診断が確定しない場合や、筋肉の組織を詳しく調べる必要がある場合には、筋肉の一部を採取する「筋生検」が検討されます。

採取した筋肉を顕微鏡で観察し、筋線維がどのように変化しているか、炎症があるか、特定のタンパク質がつくられているかなどを調べます。


近年は遺伝学的検査の進歩により、負担の大きい筋生検を行わずに診断できる病型が増えています。

デュシェンヌ型、ベッカー型、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)では、遺伝学的検査で原因となる変化が確認できる場合が多く、筋生検が必要となるケースは以前より少なくなっています。


一方、遺伝学的検査で原因が確認できない場合や、複数の病気を区別する必要がある場合などには、現在も重要な検査です。

筋生検は局所麻酔または全身麻酔で行われ、医療機関によっては短期間の入院が必要です。

8.心臓の検査

筋ジストロフィーの一部では、心臓の筋肉に影響する心筋症や、心臓の電気的な働きに影響する不整脈が現れます。

そのため、病型や症状に応じて、次のような検査を行います。

・心電図

・心エコー検査

・長時間心電図

・心臓MRI

・血液検査


動悸、息切れ、めまい、失神などがなくても、検査によって変化が見つかることがあります。

筋力低下が軽い場合でも心臓への影響が現れる病型があるため、主治医が示す間隔で定期的に確認することが重要です。

9.呼吸機能の検査

呼吸には横隔膜や胸郭周辺の筋肉が使われています。

これらの筋力が低下すると、十分に息を吸ったり、せきをして痰を出したりすることが難しくなる場合があります。

呼吸機能の低下はゆっくり進み、本人が気づきにくいことがあります。


次のような検査によって状態を確認します。

・肺活量などを測る呼吸機能検査

・せきの強さの評価

・血液中の酸素や二酸化炭素の確認

・睡眠中の酸素飽和度や呼吸状態の検査

・胸部画像検査


横になると息苦しい、睡眠が浅い、夜中に何度も目が覚める、朝に頭痛がする、日中に強い眠気があるなどは、睡眠中の呼吸機能低下と関係する場合があります。

気になる症状があれば主治医へ伝えます。

10.飲み込み・栄養の評価

口、舌、喉などの筋力が低下すると、食べ物をかんだり、飲み込んだりすることが難しくなる場合があります。

食事に時間がかかる、食べ物が喉につかえる、むせる、食後に声が変わる、体重が減る、肺炎を繰り返すなどがある場合は、飲み込みの状態を評価します。

必要に応じて、食べ物を飲み込む様子をX線で確認する嚥下造影検査や、内視鏡で喉の状態を確認する嚥下内視鏡検査などを行います。

 

栄養士や言語聴覚士などと相談し、食べ物の形や硬さ、姿勢、食事方法を調整することがあります。

11.骨・関節・姿勢の評価

筋力低下や筋肉のバランスの変化によって、関節拘縮、側弯、骨密度の低下などが起こる場合があります。

診察では、関節の動く範囲、姿勢、背骨の状態などを確認します。

必要に応じて、背骨や関節のX線検査、骨密度検査などを行います。

関節の動きを保つためのストレッチや装具、姿勢を支える機器などについて、リハビリテーション科や整形外科と相談することがあります。

12.検査結果の説明と病型の診断

問診、診察、血液検査、遺伝学的検査などの結果を総合して、筋ジストロフィーに該当するか、どの病型が考えられるかを判断します。

検査によって比較的早く病型が確定する場合もあれば、複数の検査を受けても、すぐには原因を特定できない場合もあります。

現在の検査を行っても原因が分からないことは、症状が軽いから、本人の説明が不十分だからということではありません。

まだ病気との関係が分かっていない遺伝子があることや、現在の検査方法では見つけにくい変化があることなどが理由として考えられます。

病型が確定していない場合でも、現在現れている症状に応じて、心臓や呼吸の検査、リハビリテーション、生活上の支援などを受けられることがあります。


検査結果について分からない点がある場合は、次の内容を主治医へ確認しましょう。

・現在分かっていること

・まだ分かっていないこと

・次に予定されている検査

・今後、再検査を検討する可能性

・診断が確定するまでに必要な定期検査

・日常生活で注意したい症状

病型が確定した場合は、病型の特徴、現在の症状と検査結果、定期検査、治療やリハビリテーション、学校や仕事、福祉制度、家族への影響などについて説明を受けます。


診断時にすべての説明を理解し、判断するのは難しいことがあります。

聞きたいことをメモしておく、家族や信頼できる人と一緒に説明を聞く、分からなかったことを次回の診察で再度確認するなど、自分に合った方法で情報を整理しましょう。


13.セカンドオピニオンという選択肢

診断内容や検査方針について、別の専門医の意見を聞きたい場合は、セカンドオピニオンを利用する方法があります。

セカンドオピニオンは、現在の主治医から治療を引き継ぐことを前提とするものではなく、診断や今後の方針について別の医師の意見を聞き、理解を深めるための仕組みです。


利用を希望する場合は、現在の主治医に相談し、診療情報提供書や検査結果、画像などを準備します。

14.診断後も継続的な評価が大切です

筋ジストロフィーは、病型や年齢によって症状が変化することがあります。

診断がついたら終わりではなく、筋力、運動機能、心臓、呼吸、飲み込み、栄養、骨や関節などを継続的に確認します。


症状を予測して早めに検査や対応を行うことは、日常生活を支え、合併症を早期発見するために重要です。

医師、看護師、リハビリテーション専門職、栄養士、心理士、医療ソーシャルワーカーなどと相談しながら、その時々の状態や生活に合った支援を受けていきます。

15.気になる症状がある方へ

筋力の低下、転びやすさ、運動発達の遅れ、腕の上げにくさ、飲み込みにくさ、血液検査の異常などには、筋ジストロフィー以外にもさまざまな原因があります。

症状だけで自己判断せず、気になる変化が続く場合は、子どもはかかりつけの小児科、成人は脳神経内科などに相談しましょう。

早めに相談することで、必要な検査や専門医への紹介につながることがあります。


※本ページは、筋ジストロフィーについての一般的な情報を提供するものです。個別の診断や治療については、医師などの医療従事者にご相談ください。


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