
河内先生が医師を志した背景には、「地域や社会に貢献したい」という思いがありました。新潟出身の河内先生は、自分が生まれ育った地域とのつながりを大切にしてきたといいます。
「私自身、新潟出身ということもあり、新潟のことが好きで、地域の文脈という部分を非常に大切にしています」
地域や社会を大切にしながら、自分はこれから何ができるのか。そう考えたとき、河内先生は、医師という仕事に社会貢献の大きな可能性を感じたそうです。
「医師という仕事は、社会貢献において非常に大きな役割を担うことができるのではないかと考え、志しました」
社会貢献には、制度をつくることや、社会全体に働きかけることなど、さまざまな形があります。河内先生にとっての医師という仕事は、その中でも、地域に根ざしながら医療を通して社会に関わることができる仕事でした。
また、河内先生にとって、新潟大学で脳や神経の研究に取り組む環境も大きな意味を持っていました。
「脳研究所で脳・神経の研究をしたいという理由で、新潟大学に入学する医学生が非常に多くいます」
神経疾患の中には、今も治療法が十分に確立されていない病気が多くあります。河内先生は、そうした病気を少しでも前に進めたいという思いから、脳神経内科の道へ進まれました。
「脳神経内科を志したきっかけは、まだまだ治療法がないものをなんとかしていきたい、という思いからです」
神経免疫疾患を専門にした背景には、神経学と免疫学の両方から病気を理解したいという思いもありました。神経の病気の中には、長く原因や治療法が十分に分からなかったものもあります。だからこそ、病気の仕組みを明らかにし、治療の選択肢を広げていくことは、患者さんやご家族の未来につながる取り組みでもあります。
さらに、神経免疫疾患で悩み、苦しむ患者さんと出会ってきた経験も、この分野に進む大きな理由の一つになったといいます。
研究によって病気の仕組みを明らかにすること。
診療を通して患者さんの困りごとに向き合うこと。
そして、まだ治療が十分に届いていない病気を少しでも前に進めていくこと。
河内先生の医師としての原点にあったのは、地域や社会への思いと、神経疾患の治療を前に進めたいという強い思いだったのです。
医師を志した原点について伺う中で、河内先生が患者さん一人ひとりとの関わりを大切にしていることが伝わってきました。
河内先生の言葉から強く伝わってくるのは、患者さんを「疾患のある人」としてだけではなく、「一人の人」として見つめる姿勢です。
医師という仕事について、河内先生はまず、患者さんとの対話から多くのことを教えられていると話します。
「私自身、人が好きなんです。患者さんとお話をすることで、私たち医師は、多くのことを教えていただいているんですね」
診察室で交わされる会話は、症状や検査結果を確認するだけの時間ではありません。
患者さんがどのような不安を抱えているのか、どのような生活を送っているのか、何を大切にしているのか。そうした一つひとつの言葉の中に、その人の暮らしや人生が表れます。
河内先生は、実際に医師として患者さんと向き合う中で、若い頃に想像していた以上に、患者さんから教えられることが多い仕事だと感じているそうです。
「患者さんの人生を背負うという仕事だと感じています。ここまで誰かの人生に触れて、患者さんから色々と教えていただける職業って、他にはなかなかないだろうなと思います」
病気を診ることは、検査値や画像だけを見ることではありません。
その病気によって、患者さんの生活がどう変わるのか。
仕事や学校、家族との関係にどのような影響があるのか。これからの人生をどう考えていくのか。
河内先生にとって医療とは、患者さんの体だけを治すことにとどまらないものです。
「医師とは、体だけを治す仕事だとは思っていなくて。もちろん体もそうですが、メンタルも、患者さんが抱えている社会的な事情も含めて見ていくことが大切だと思っています」
この言葉には、患者さんを病気や症状の一部としてではなく、その人全体として受け止めようとする姿勢が表れています。
同じ神経免疫疾患であっても、患者さんの状況は一人ひとり異なります。症状の出方、治療への不安、家庭での役割、仕事や学校での立場、支えてくれる人の有無、これから叶えたい希望も、それぞれ違います。
だからこそ、医療者が一方的に「この治療をしましょう」と決めるだけでは、その人にとって本当に納得できる医療にはなりません。患者さんがどのような人生を歩んできて、これから何を大切にしたいのかを知ることが、治療を考えるうえでも大切になります。
河内先生は、医師という仕事の特徴について、「一人ひとりからスタートする」ことだと話します。
「一人ひとりからさまざまな情報をいただけるし、また、その情報の上で、地域に沿った社会貢献ができる」
また、社会全体を見る仕事と比較しながら、医師という仕事の特徴を次のように話します。
「例えば政治家などは、一人ひとりをあまり見ることはできないと感じていて。どちらかというと、マスで見て、どういうふうなことが利益なのかということを大事に考えなければいけない」
一方で、医師は目の前の一人ひとりから始まる仕事だといいます。
「医師という仕事は、一人ひとりからスタートするということが、とても大切だなと思っております。一人ひとり異なる背景を持つ方に向き合うことができるというのは、医師として貴重な機会だと感じています」
病名が同じでも、困りごとは同じではありません。
治療が同じでも、不安の形は同じではありません。
生活背景が違えば、必要な支援も変わります。
河内先生が大切にしているのは、病気を分類して見るだけではなく、その病気とともに生きる一人ひとりの人生に目を向けることです。
河内先生の「一人ひとりの人生に向き合う医療」は、ホールパーソンケアという考え方につながっています。
ホールパーソンケア (whole person care) とは、患者さんを病気や臓器だけで見るのではなく、からだ、こころ、生活、家族、社会との関わりまで含めて、その人全体を支える医療の考え方です。
河内先生は、次のように話します。
「私自身は、ホールパーソンケア (whole person care) がとても大切だと思っていて、全人的な医療という表現は言い古された言葉ですが、ひとつの臓器だけではなく、患者さんのからだ・こころ・生活・家族・仕事・社会との関わりまで含めて、全体として支える医療がとても大切かなと思っています」
一方で、河内先生は、ホールパーソンケア (whole person care) を一人の医師で担うことには限界があるとも話します。
「一人の医師が担える時間には限りがあるので、そういう点で考えると、チーム医療という形に持っていかなければなりません」
医療者自身の働き方や、医療現場の体制を考えたとき、一人の医師がすべてを抱え込むのではなく、多職種連携協働の観点から、チームで患者さんを支えることが大切になります。
「目標は、ホールパーソンケア (whole person care) です。一人の医療者が担うのではなく、多くのチームをつくって、多くの医療者が多職種連携で担う、そういう方向にかじを切るべきだと思っています」