外見からわかりにくい困難

外見からわかりにくい困難

難病があっても、外見からはわかりにくいことがあります。「元気そうに見えるね」。そう言われて、返す言葉が見つからなかったことはないでしょうか。

元気に見えることを、うれしく受け取れる日もあるかもしれません。一方で、自分が感じているつらさとの違いに、なんとも言えない行き場のなさが残ることもあります。けれど、その場で一から説明する気力が残っているとは限りません。

ここで、先に一つお伝えします。理解されにくいのは、本人の伝え方だけが原因ではありません。外見だけでは状態がわからないため、本人が感じていることと、周囲から見えている姿との間にずれが生まれやすいのです。

この記事では、なぜこうしたすれ違いが起こりやすいのかを、順に見ていきます。


「元気そうに見えるね」と言われたとき

外から見えにくい困難は、暮らしのさまざまな場面に現れます。たとえば、このようなときです。

職場で、体調の悪い日に休みをもらったとします。次の週に出勤すると、「顔色よくなったね」と声をかけられます。体調が元に戻ったわけではなく、その日は出勤できただけ、ということもあります。ただ、その場で詳しく説明できるとは限りません。

学校の行事などでは、前日になっても行けるかどうかが決められないことがあります。明日になってみないと、自分でもわからない。そのようなときに、友だちからは「来るの、来ないの」と聞かれることもあります。

家では、その日の体調をうまく言葉にできないこともあります。身近な相手だからこそ、詳しく説明しなくてもわかってほしいと思うこともあるでしょう。それだけに、思うように伝わらなかったとき、つらさを感じることがあります。

電車の優先席にすわっているとき、まわりの視線が気になることもあります。何も言われてはいないですが、説明を求められているように感じることも。

こうした小さなすれ違いは、一度きりではなく、日常のさまざまな場面で重なることがあります。


症状には波がある。でも、周囲から見えるのはそのときだけ

外から見えにくい困難は、「見えない障害」と呼ばれることもあります。
まず、症状の変化について考えてみます。

調子のよいときの姿が、ふだんの状態だと思われることがある

外出できた日に会った人が目にするのは、その日の姿です。買い物ができて、少し立ち話もできた。その様子だけを見れば、元気に過ごせているように見えるかもしれません。

けれど、家に帰ったあとに動けなくなったり、次の日に長い時間横になったりしても、その様子は会っていた相手には見えません。
ここに、すれ違いが生まれます。まわりの人が見ているのは、会っている時間だけ。いわば「点」です。
一方、本人は、その前後も含めて体調の変化を経験しています。本人にとっては、毎日の体調がつながった「線」なのです。

さらに、調子の悪い日は、外出を控えたり、外に出ること自体が難しくなったりしますので、つらいときの姿ほど、周囲の目に触れにくくなることがあります。こうして、本人が感じている状態と、周囲から見えている姿との間にずれが生まれやすくなるのです。

外から見えないところで起きていること

症状や困りごとは、病気や人によって異なります。外からわかりにくい症状には、たとえば次のようなものがあります。

  • 強い疲れやすさ
  • 痛みやしびれ
  • 集中しづらさ、覚えにくさ
  • 体温の調節がむずかしいこと
  • おなかの症状
  • 光や音、においを強く感じられること

これらのなかには、外見からは症状の有無や程度がわかりにくいものがあります。
また、症状によっては、日によって強さが変わったり、同じ日でも時間帯によって変化したりすることがあります。こうした変化も、周囲からはわかりにくい部分です。


見えにくい困難は、そのつど説明を求められる

もう一つの負担は、自分の状態を繰り返し説明する必要が生じることです。

外からわかる手がかりがあると、困難に気づいてもらいやすい

松葉つえなど、外からわかる手がかりがあると、周囲が困りごとに気づくきっかけになります。ただし、見た目だけで、どのような配慮が必要なのかまですべてわかるわけではありません。

一方、外からわかる手がかりがないと、困っていること自体に気づいてもらえない場合があります。そのため、本人から自分の状態や困りごとを説明する必要が生じることもあります。

説明しても、症状の程度を相手が同じように感じることはできません。どのような状態なのか、何に困っているのかを言葉で伝えていくことになります。

職場や学校では、障害によって生じる困りごとを減らすために「合理的配慮」という考え方があります。職場と学校では根拠となる法律が異なり、学校などでは障害者差別解消法、雇用の場では障害者雇用促進法に基づいて対応が検討されます。

難病と診断されているだけで自動的に対象になるわけではありません。難病が原因で起こる心身の機能障害によって、生活や仕事に継続的な制限がある場合などは、障害者手帳を持っていなくても対象になることがあるからです。
必要な配慮は、本人の状態や状況に応じて個別に検討されます。

説明する相手は、入れ替わり続ける

説明は、一度で終わるとは限りません。相手が変われば、同じことをもう一度伝える必要が出てくるからです。

職場では、上司が変わったり、異動で部署が変わったりします。学校では、学年が上がれば担任も変わります。引っ越しなどをきっかけに、通院先が変わることもあるでしょう。

そのたびに考えるのが、病名をどこまで話すかということです。

病名を伝えたことで話しやすくなる人もいます。一方で、仕事の任され方が変わったり、必要以上に気を使われたりするケースもあります。そのため、どこまで伝えるか迷う人も少なくありません。

さらに、体調が悪いときにこそ、休む理由や必要な配慮を説明しなければならない場面もあります。けれど、そのようなときは、詳しく話すだけの余力が残っていないかもしれません。

同じ説明を何度も繰り返すこと。それ自体が、少しずつ負担になっていきます。


「元気そう」は、気づかいから出ることもある

「元気そう」という言葉は、気づかいや励ましのつもりで使われることもあります。
けれど、外見から見えている姿と、本人が感じている体調は同じとは限りません。言う側は前向きな言葉のつもりでも、受け取る側にはつらく響くことがあります。

たとえば、「少し元気になったように見えて安心した」という気持ちから声をかけているのかもしれません。一方で本人は、「元気に見えるなら、つらさは伝わっていないのかもしれない」と感じることもあります。

相手に悪気がないとわかっているほど、「その言葉がつらかった」とは伝えにくいこともあるでしょう。

気づかいから出た言葉でも、言われた側のつらさがなくなるわけではありません。大切なのは、どちらが悪いかを決めることではなく、見えている姿と本人の実感との間に、ずれが生まれることがあると知っておくことです。


  1. 全員に理解してもらおうとしなくてもよい

ここで紹介する工夫は、本人の「説明不足」を補うためのものではありません。必要なことを、少し伝えやすくするための選択肢です。

すべての人に、自分の状態を同じように理解してもらおうとすると、そのたびに説明が必要になります。誰に、何を、どこまで伝えるかまで、すべて同じにする必要はありません。
相手や場面にあわせて、伝える内容を選んでもよいのです。

1|誰に、どこまで伝えるかは、選んでよい

すべての人に、同じ内容を伝える必要はありません。
たとえば、病名を出さずに、困っていることだけを伝える方法も一つです。

  • 長く立っているのがむずかしい
  • 急に休むことがある
  • 音の大きい場所が苦手

病名を伝えると、その病気に対する相手のイメージで受け取られることもあります。一方で、いま困っていることを具体的に伝えたほうが、必要な配慮につながりやすい場合もあります。

伝える相手をしぼってもかまいません。職場なら、全員ではなく直属の上司に伝える。学校なら、担任や養護教諭に相談する。相手や場面にあわせて、伝える範囲を決められます。
また、ヘルプマークを使えば、外見からはわかりにくくても、援助や配慮が必要なことを周囲に知らせることができます。

2|説明をひとりで抱えない方法もある

説明を、いつもひとりで引き受ける必要はありません。
同じ病気の方や、近い経験をした方であれば、長い前置きをしなくても話が通じることがあります。患者会や支援団体では、同じような経験をもつ人と話したり、情報を得たりできます。

仕事のことなら、職場の産業医に相談する方法もあります。健康状態や、仕事を続けるうえで困っていることを伝え、必要な配慮について相談も可能です。

ただし、すべての職場に産業医がいるわけではありません。産業医の選任が義務づけられているのは、常時50人以上の労働者がいる事業場です。

それより小規模な事業場で働く方などを対象として、「地域産業保健センター」という相談窓口も設けられています。医師や保健師などに、原則無料で健康について相談でき、働いている本人も利用できます。

地域産業保健センターは、職場との交渉を代わりに行う窓口ではありません。まず自分の体調や働き方について、医療者と整理したいときの相談先の一つです。

3|利用できる制度もある

症状や生活上の困りごとの内容によって、利用できる制度があります。

病気によって生じた障害の種類や程度が認定基準を満たす場合は、障害者手帳などの対象になることがあります。難病と診断されたことだけで手帳が交付されるわけではありません。。

また、対象となる難病などでは、障害者手帳がなくても、お住まいの市区町村に申請することで、福祉サービスを利用できる場合があります。いずれも申請や認定などの手続きがあり、自動的に受けられるものではありません。


おわりに

伝えたつもりでも、うまく伝わらないことがあります。それをすべて、説明の仕方の問題だと考える必要はありません。外見だけではわかりにくいことがある以上、伝わりにくさを説明する側だけの責任にしなくてもよいのです。

本人だけでなく、ご家族が周囲への説明を担うなかで、負担を感じることもあるでしょう。

説明を、いつもひとりで続ける必要はありません。必要なときには、紹介した相談先や、患者会・支援団体につながる方法もあります。


関連情報

  • ヘルプマークの受け取り方は、かんしん広場の「ヘルプマーク」のページをご覧ください。
  • ご家族や職場の方など、まわりの方に向けた情報も、かんしん広場の「ヘルプマーク」のページでも紹介されています。
  • 障害者手帳の種類や申請の手順は、かんしん広場の「障害者手帳」のページをご覧ください。
  • 障害者手帳がなくても利用できる福祉サービスについては、かんしん広場の「障害福祉サービス」のページをご覧ください。
  • 同じ病気の方とつながりたい場合は、かんしん広場の「患者会・支援団体紹介」もあわせてご覧ください。
  • 難病について、患者数が少ないことから生じる課題の全体像は、本シリーズの記事1で扱っています。
  • 難病のある方の生活や就労、社会保障に関する課題については、本シリーズの記事5で扱っています。