患者さん・家族・医療者が一緒に進める支援の全体像
2026/10/28 更新
子どものころから病気の治療を続けている方が成人期を迎えるときには、診療する医療機関や診療科だけでなく、治療への関わり方や生活環境も少しずつ変わっていきます。こうした変化の中でも必要な医療を途切れさせず、その人らしい生活を続けられるように支えるのが「成人期医療への移行支援(成人移行支援)」です。
移行支援は、小児診療科から成人診療科へ転科するためだけのものではありません。患者さん本人の意思や理解を大切にしながら、医師、看護師、医療ソーシャルワーカーなどが連携し、必要に応じてご家族も一緒に、成人期の医療や生活を考えていく取り組みです。
この記事では、成人移行支援の全体像と、患者さん・ご家族・医療者それぞれの役割、支援を進めるうえで大切な考え方を解説します。
日本小児科学会は「成人移行支援」を、小児期に発症した慢性疾患のある患者さんが成人期を迎えるにあたり、本来持っている能力や機能をできるだけ発揮し、その人らしい生活を送れるようにするための支援と位置づけています。医療だけでなく、健康や福祉も含めた広い視点で支えることが特徴です。
つまり、成人移行支援の目的は「小児科を卒業すること」や「成人診療科へ転科すること」そのものではありません。成人期になっても必要な診療を受け続けられること、患者さん本人が自分の状態や希望に応じた形で医療に関われること、そして生活上の支援も含めて将来を考えられることが大切です。
移行期医療そのものの意味や、なぜ必要なのかについては
「移行期医療とは?なぜ必要なの?子どもの医療から大人の医療へ」で詳しく紹介しています。

移行支援では、患者さん本人の理解力や判断力に応じて説明し、本人が意見や希望を表明できるように支えることが大切です。治療や受診先について、医療者やご家族だけで決めてしまうのではなく、本人が「どうしたいか」「何が不安か」を伝えられるようにします。
ただし、自分で判断したり言葉で説明したりすることが難しい患者さんもいます。その場合も「本人だけで決められないから支援の対象にならない」ということではありません。本人が理解しやすい説明方法を工夫し、表情や行動なども含めて本人の意思を丁寧に確認しながら、必要な支援を考えていきます。
成人移行支援は、何歳になったら必ず転科する、という一律の手順ではありません。病気の種類や状態、患者さん本人の発達や理解、ご家族の状況、地域で利用できる医療資源などによって、適した進め方は異なります。
早い段階から少しずつ準備することは大切ですが、「○歳までにここまでできなければならない」と考える必要はありません。
準備を始める時期や成長に合わせた進め方については「移行期医療はいつから準備すればいい?成長に合わせた進め方と保護者の関わり方」で詳しく解説しています。
移行支援で特に重要なのが、成人期になっても必要な医療が途切れないようにすることです。小児期から長く診てもらっている病気については、小児診療科の医師が詳しい場合があります。一方で、成人期に生じる健康上の問題については、成人診療科の専門性が必要になることがあります。
そのため、患者さんの病状や必要な診療に応じて、小児診療科と成人診療科が情報を共有し、誰がどの部分を担当するのかを相談していくことが大切です。
すべての診療を一度に成人診療科へ移すとは限りません。
小児期には、ご家族が受診の付き添い、薬の管理、医師とのやり取りなどを担っていることが少なくありません。患者さんが成長すると、ご家族の役割も、本人に代わって行うことから、本人ができることを支えることへ少しずつ変わっていきます。
一方で、ご家族が急に手を離すことが望ましいわけでもありません。日本小児科学会は、保護者を成人移行支援の重要なパートナーと位置づけています。患者さん本人にどの程度の支援が必要なのかを一緒に考え、ご家族自身の不安や負担にも目を向けながら役割を調整していくことが大切です。
成人移行支援は、ひとつの職種だけで進めるものではありません。
患者さんの状況に応じて、さまざまな専門職が役割を分担します。
| 関係者 | 主な役割 |
|---|---|
| 患者さん本人 | 体調や困っていること、希望を伝え、理解できる範囲で治療や受診について話し合いに参加する |
| ご家族 | 本人の理解や意思表明を支え、これまでの経過や生活上の情報を医療者と共有する |
| 小児診療科の医師 | これまでの病歴や治療経過を整理し、成人期に必要となる診療を検討しながら成人診療科と連携する |
| 成人診療科の医師 | 成人期に起こりやすい健康問題も含めて診療し、小児期からの病気について必要に応じて小児診療科と情報共有する |
| 看護師 | 病気や治療の理解、受診への参加、健康管理など、本人ができることを少しずつ増やす支援を行う |
| 医療ソーシャルワーカー・心理職など | 医療機関同士の調整、生活や制度に関する相談、心理面の支援などを行う |
医療機関によって、移行支援に関わる職種や体制は異なります。
専門の「トランジション外来」や移行支援チームを設けている医療機関もありますが、専用の外来がなくても、主治医や看護師、医療ソーシャルワーカーなどが協力して支援する場合があります。

成人期の診療へつなぐときは、患者さんの病気や生活の状況を確認し、どのような診療体制が適しているかを検討します。
必要に応じて、成人診療科の候補を探し、これまでの病歴や治療内容を共有して、受け入れが可能かを確認します。
このとき大切なのは、紹介状を渡して終わりにしないことです。小児診療科が把握している病気の特徴、これまでの治療経過、注意が必要な症状、緊急時の対応などを、成人診療科へ適切に引き継ぐ必要があります。患者さん自身が確認できる医療サマリーを活用することもあります
また、成人診療科を一度受診しただけで移行が完了するとは限りません。日本小児科学会は、転科後も必要な医療が継続されているかを確認し、うまくいかない場合は成人診療科と情報交換して対応することを提言しています。
成人診療科の診療方法や説明の進め方が小児診療科と異なり、患者さんやご家族が戸惑うこともあります。
そのような場合には、「新しい病院に合わないから我慢する」「元の病院には戻れない」と考えず、困っていることを医療者に伝え、必要に応じて診療体制を調整することが大切です。
移行支援では「本人の自立」が重視されますが、ここでいう自立は、すべてを一人でできるようになることだけを意味しません。
自分でできることと、支援が必要なことを知り、必要なときに助けを求められることも大切な力です。
たとえば、薬を一人で管理することが難しい場合には、ご家族が確認を続けながら本人ができる部分だけ担当する方法があります。診察で話すことが難しい場合には、事前に伝えたい内容を一緒に整理したり、本人が答えられる質問は先に本人へ尋ねてもらったりすることもできます。
知的障害や発達上の特性、重い障害などによって、自律的な意思決定が難しい患者さんについても、本人の意思や選好をできるだけ尊重しながら支えることが重要です。支援の目標を「一人でできるようにすること」に固定せず、その人が必要な医療を受けながら、自分らしく生活できる方法を考えていきます。
成人移行支援は、医療者側が計画を立てれば必ず予定どおり進むわけではありません。希少疾患などで成人診療科に同じ病気を専門とする医師が少ない場合や、複数の診療科にまたがる診療が必要な場合、医療的ケアが多い場合などは、受診先の調整に時間がかかることがあります。
また、病状が不安定な時期や、進学・就職など生活が大きく変わる時期には、転科を同時に進めることが負担になる場合もあります。患者さん本人が転科に強い不安を感じているときも、気持ちを置き去りにして進めることは適切ではありません。
こうした場合には、「予定どおり転科すること」を優先するのではなく、いま必要な医療を確保しながら、何が障壁になっているのかを患者さん・ご家族・医療者で確認します。小児診療科と成人診療科が併診する、成人期の健康問題だけを成人診療科に相談するなど、状況に応じた診療体制を検討する場合もあります。
成人移行支援のゴールは、成人診療科の初回受診を終えることではありません。成人期になっても必要な医療を継続でき、困ったときに相談できる体制があることが重要です。
患者さんの病状や生活、ご家族の状況は時間とともに変化します。一度決めた診療体制が将来もずっと最適とは限りません。成人診療科へ移ったあとも、小児期からの病気について小児診療科の専門医と連携した方がよい場合や、生活環境の変化に合わせて受診先を見直す場合があります。
移行支援は「小児医療から成人医療へ渡して終わる」のではなく、患者さんが成人期以降も適切な医療を受けながら生活できるよう、必要に応じて支援をつなぎ直していく過程だと考えることが大切です。
成人期医療への移行支援は、小児診療科から成人診療科への転科だけを目的としたものではありません。患者さん本人の意思を尊重し、必要な医療を途切れさせず、その人らしい成人期の生活を支えるための取り組みです。
支援の進め方は一人ひとり異なります。患者さん本人、ご家族、小児診療科、成人診療科、看護師、医療ソーシャルワーカーなどがそれぞれの役割を持ち、必要に応じて連携しながら進めます。
「何歳までに転科しなければ」と急ぐのではなく、今の病状や本人の理解、生活の状況を踏まえて、どのような医療と支援が必要なのかを話し合うことが第一歩です。わからないことや不安なことがあれば、まずは現在の主治医や医療機関のスタッフに相談し、一緒に考えていきましょう。