【血友病・小児医療】石黒精先生 インタビュー

【第二部】


血友病治療はここまで進歩した

定期補充療法から遺伝子組み換え製剤、遺伝子治療へ

写真:石黒精先生

血友病の治療は、この数十年で大きく変わりました。

出血したときに止血することが中心だった時代から、定期的に治療して出血を予防する時代へ。血症由来製剤から遺伝子組み換え製剤へ。

さらに、半減期延長製剤、皮下注射で出血を抑える非因子製剤や、遺伝子治療といった新しい選択肢も登場しています。長年、血友病の診療と治験に携わってきた石黒精先生に、治療の進歩によって患者さんの生活がどう変わったのか、そして今後の可能性と課題を伺いました。

 


お写真は、小倉さんの許可を頂いて掲載しております。

Q.先生が血友病診療に携わり始めた頃と比べ、血友病治療はどのように変わりましたか。

私が若い頃は、血友病の治療は今とはまったく違う状況でした。かつては出血したら止血するという治療が中心でしたが、その後、凝固因子製剤を定期的に投与して出血を予防する定期補充療法が広がっていきました。

定期補充療法によって、日常生活は大きく改善しました。ただ、凝固因子製剤は静脈注射が必要で、多くは週に何度も注射しなければなりません。特に子どもやご家族にとって、その負担は決して小さくありませんでした。

その後、製剤自体も改良され、さらに凝固因子を補う方法とは異なる新しい治療も登場しました。以前であれば「血友病だから難しい」と考えられていた生活や運動ができるようになり、治療の目標そのものが変わってきたと感じます。

血友病診療の歴史を振り返ると、治療薬そのものの進歩だけではなく、安全性や投与方法も大きく変わってきました。私が若い頃は、血友病診療を取り巻く環境も現在とは大きく異なりました。長い時間をかけて、出血を止める医療から、出血を起こさせず、関節を守り、血友病でない人と同じような生活に近づける医療へと目標が移ってきたのだと思います。

Q.近年の血友病治療の中で、特に大きな進歩だったと感じる治療は何でしょうか。

近年では、抗血液凝固第IXa/X因子ヒト化二重特異性モノクローナル抗体などの非因子製剤の登場が大きな進歩だったと思います。私自身、これまでさまざまな薬の登場を見てきましたが、その中でも非常に印象に残っている薬の一つです。治験にも参加しました。

血友病Aでは、従来のように凝固因子を静脈から頻回に投与する方法とは異なり、皮下注射で出血を予防できるようになりました。小さい子どもでは、出血を非常に少なく抑えながら過ごせるケースも増えています。血友病治療に伴う注射の負担を大きく変えたことは、患者さんだけでなく、ご家族にとっても非常に大きな意味があります。

Q.非因子製剤の登場によって、患者さんの治療や生活はどのように変わったのでしょうか。

以前は週に何回も静脈注射をする必要がありましたが、非因子製剤の一つであるエミシズマブでは週に1回から4週に1回の間隔で皮下注射を行う治療が可能になりました。小さい子どもに何度も静脈注射をすることは大きな負担ですから、その点だけでも生活は大きく変わります。

一方で、すべての患者さんが同じ治療だけで十分というわけではありません。小学校高学年や中学生になると、スポーツなどで活動量が増えます。運動の強度によっては出血のリスクも変わるため、必要に応じて凝固因子製剤を組み合わせるなど、その人の生活に合わせて治療を考えることが重要です。

今は「出血を防ぐ」だけでなく、「その人が何をしたいのか」から逆算して治療を選ぶ時代になってきたと思います。

Q.血友病Bの遺伝子治療の治験に携わり、どのような可能性を感じましたか。

血友病Bの遺伝子治療の国際共同治験にも携わりました。実際の治験では、治療によってそれまで週に複数回必要だった点滴が長期にわたって不要になる大きな効果がみられました。患者さんの状態が目に見えて良くなるのを経験すると、非常に大きな可能性を感じます。治験では、治療そのものだけではなく、PMDAとのやり取りなど、実用化までに必要なプロセスにも関わりました。新しい治療を患者さんへ届けるには、医学的な効果だけでなく、多くの確認や調整が必要であることも実感しました。

遺伝子治療は、一度の治療によって長期間にわたり凝固因子を作れる状態を目指す治療です。従来の血友病治療では定期的な投与を続ける必要がありましたから、治療負担という意味では大きな変化になり得ます。

Q.遺伝子治療を含め、今後の血友病治療にはどのような可能性と課題があるとお考えですか。

医学的な可能性は大きいと思います。ただし、良い治療法ができればそのまま患者さんに届くわけではありません。遺伝子治療は非常に高額になる可能性があり、日本で企業が開発や承認申請を進めるのか、医療制度としてどこまで支えられるのかという問題があります。

血友病治療は確実に進歩してきました。今後も新しい治療は出てくるでしょう。一方で、「効果があるか」だけでなく、「必要な患者さんに持続的に届けられるか」という視点も、これからますます重要になると思います。

まとめ

石黒先生のお話から、血友病治療の進歩が、患者さんの生活そのものを大きく変えてきたことが分かります。治療選択肢が増えたことで、出血を防ぐだけでなく、患者さんが望む生活や活動を踏まえて治療を選べる時代になりました。一方で、遺伝子治療のような新しい治療を必要な患者さんへ継続的に届けるためには、開発や医療費、医療制度といった課題にも向き合う必要があります。

第三回では、治療選択肢の広がりによって、血友病の子どもたちの生活やスポーツの可能性がどのように広がってきたのか、そして成長に伴って生まれる新たな課題について伺います。


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【第一部】血友病診療と研究をつなぐ

【第三部】血友病でも「やりたいこと」をあきらめない(11/13公開予定)

【第四部】血友病を地域で支える(11/13公開予定)



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