【血友病・小児医療】静岡県立こども病院 小倉妙美先生 インタビュー

【第一部】


治療の進歩で広がった子どもたちの選択肢

静岡県立こども病院 小倉妙美先生インタビュー

写真:村山広和さん

血友病の治療は、この20年余りで大きく変化してきました。

かつては入院が必要になる場面も珍しくなく、スポーツにも多くの制限がありましたが、治療選択肢の広がりによって、子どもたちの生活や将来の選択肢も変わりつつあります。

2002年から静岡県立こども病院で診療に携わり、血友病を含む小児血液疾患を診てきた小倉妙美先生に、医師を志したきっかけから、血友病診療との出会い、治療の進歩によって感じる変化まで伺いました。

 

インタビュー目次

医師を志したきっかけは「日本初の生体肝移植」のニュース

Q.医師を目指されたきっかけを教えてください。

もともとは学校の先生になりたいと思っていました。高校2年の秋、日本で初めて生体肝移植が行われたというニュースを見て、移植医療のすごさに強く惹かれたことが、医師を目指すきっかけです。当初は小児外科医になりたいと考えていました。

印象に残ったのは、最先端の医療が必ずしも大都市の大学だけで行われているわけではなかったことです。「どこにいても、志があれば新しい医療に挑戦できるのではないか」と感じました。そこから、医師という仕事を具体的に目指すようになりました。

Q.外科ではなく、小児科に進まれたのはなぜですか。

大学の病院実習で手術に立ち会った際に、血を見て気分が悪くなり倒れてしまい、自分は外科医には向いていないと感じました。それでも移植医療に関わりたいという思いは残っていたため、造血幹細胞移植が出来る血液内科を考えるようになりました。

当時は血液疾患の治療がまだ厳しい時代でしたが、小児では治癒を目指せる病気もありました。未来のある子どもたちが治って、元気に学校に戻っていくところに関わりたい。そう考えて、小児科を選び、その中でも小児血液を目指しました。

小児がんを志して入った病院で、血友病診療へ

Q.血友病の診療に関わるようになった経緯を教えてください。

静岡県立こども病院には、小児がんを診たいと思って来ました。最初は小児がんを中心に診療していましたが、当時の上司である三間屋純一先生から提案される学会発表のテーマは血友病に関するものが多く、さまざまな血友病の患者さんに接する機会をいただきました。そうした経験を重ねる中で、自然と血友病が自分の専門になっていった、というのが実感です。

当時は血友病のことは何も知らずに、当院を選びましたが、後から振り返ると、静岡県立こども病院は以前から血友病患者さんが多く、包括的な診療にも早くから取り組んでいた病院でした。結果として血友病を深く学べる環境に身を置くことになりました。

Q.血友病診療に携わり始めた当時、どのような時代だったのでしょうか。

当時は、現在のようにさまざまな治療選択肢から生活に合わせて治療を考えるという状況ではありませんでした。私が診療に携わり始めた頃は、遺伝子組換え製剤広がっていく時期で、半減期を延長した製剤もまだありませんでした。定期的に治療する選択肢も限られており、出血によって入院する患者さん、血友病関節症で手術を受ける患者さんも多くおりました。

その時代を知っているからこそ、今の診療では、治療の進歩が単に薬の種類を増やしただけではなく、患者さんが学校生活や運動、将来について考えられる範囲そのものを広げたと感じています。

2002年から現在まで、血友病治療は「大きく変わった」

Q.血友病の診療に携わり始めた頃と現在では、どのような違いがありますか。

私が静岡県立こども病院に来たのは2002年です。当時は、今のように治療の選択肢が多い時代ではありませんでした。定期補充療法も現在ほど一般化しておらず、血友病の患者さんが入院することも多くありました。

そこから治療は本当に大きく変わりました。製剤が進歩し、治療によって出血を抑えながら生活するという考え方が広がってきました。血友病診療に関わってきたこの20年余りは、治療の変化を診療現場で間近に見てきた時間でもあります。

Q.治療の進歩によって、子どもたちの生活で特に変わったと感じることはありますか。

一番わかりやすいのはスポーツだと思います。以前は「血友病の子どもの運動といえば水泳」というような雰囲気があり、サッカーのような接触のあるスポーツは、医療者もご家族も最初から避けようとすることが少なくありませんでした。中には、出血するからと学校の体育も禁止されていたお子さんもいました。

ところが治療が進歩するにつれて、野球や卓球などへ選択肢が広がり、今ではサッカーも候補に挙がるようになっています。もちろん、何の準備もなくできるという意味ではありません。当然、活動度に合わせた出血抑制治療や出血時への備えは必要です。ただ、「やりたいなら、どうすればできるかを一緒に考えよう」と話せる時代になったことは、とても大きな変化です。

Q.スポーツを希望する子どもには、どのように向き合っていますか。

今は「血友病だから最初から諦める」というよりも、本人が何をやりたいのかを聞き、そのためにどのような準備が必要かを一緒に考えるようにしています。当院では、私だけでなく他科の医師や看護師、心理師も相談にのってくれます。治療のタイミングや出血時の対応を理解し、周囲の大人とも共有した上で、安全に続けられる方法を探していきます。

選択肢が広がった一方で、病気を忘れてよいということではありません。できることが増えたからこそ、本人も家族も、血友病について必要な知識を持ち、自分たちの生活に合った備えをしておくことが大切だと思います。

まとめ

治療の進歩は、単に「出血を減らす」だけではなく、子どもたちが自分らしい生活や活動を選べる可能性を広げてきました。一方で小倉先生は、治療が良くなったからこそ、病気への理解と適切な備えを持つことが重要だと話します。

次の記事では、小児期から成人期へ向かう中で、血友病の子どもたちがどのように病気を学び、自分で健康を管理できるようになるのか、静岡県立こども病院の移行期支援について伺います。


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