利便性だけで選ばない治療、保因者支援まで
小倉妙美先生が考える今後の課題

血友病では新しい治療選択肢が次々に登場し、出血を抑えながら日常生活を送ることが以前より現実的になっています。その一方で、治療が便利になったからこそ、「なぜこの薬を使うのか」「自分の生活に合っているのか」を考えることの重要性も増しています。
また、患者本人だけではなく、保因者や女性への支援も今後の大きな課題です。
静岡県立こども病院の小倉妙美先生に、血友病治療の現在と未来、患者さん・ご家族に伝えたいことを伺いました。
14. 新しい治療は増えた。だからこそ「利便性と効果」の両方を見る
15. これからの血友病治療は、さらに「病気を意識しない生活」へ
17. 患者さん・ご家族へ―自分に合った「病気との付き合い方」を探してほしい
18. まとめ
お写真は、小倉さんの許可を頂いて掲載しております。
治療の選択肢はかなり増えてきたと感じています。皮下注射で治療できる薬も登場し、特に小さな子どもやご家族にとって、早い段階から家庭で治療を続けやすくなったことは大きな変化です。
一方で、便利だからという理由だけで治療を選ぶのではなく、その薬にどのような効果があり、どこに限界があるのかを知ることも大切です。生活のしやすさは重要ですが、患者さんの状態や必要な治療効果を踏まえて考えなければなりません。
そう思います。新しい薬が出た時に、『今使っている薬と何が違うのか』『自分にとってどんなメリットがあるのか』を考えてほしいです。勧められたからそのまま使うのではなく、自分の生活や治療目標に合っているかを医療者と一緒に考えてほしいと思います。
治療には医療資源という側面もあります。より良い薬を必要な人が適切に使えるようにするためにも、その薬の特徴を理解し、有効に使うことが大切です。
一つの治療を全員に当てはめるのではなく、通院や注射の負担、学校や仕事、運動など、それぞれの生活に合わせて治療を考えやすくなったという意味で大きいと思います。その一方で、選択肢が増えるほど、患者さん自身が治療の違いを理解する必要も出てきます。
医療者が『新しいからこちらがよい』と一方的に決めるのではなく、今の治療で困っていることは何か、新しい治療によって何が変わるのかを一緒に整理しながら決めていくことが大切です。最近言われているShared Decision Making (SDM)ですね。
将来的には、より高いレベルで凝固能を保てる治療が出てくる可能性があると考えています。そうなれば、日常生活では血友病ではない人に近い感覚で暮らせる場面がさらに増えていくかもしれません。
ただし、日常生活が安定していても、手術や大きなけがなど、血友病であることを意識する必要がある場面は残ります。治療が進歩するほど、『普段は気にしなくてよいけれど、必要な時には自分の病気と治療を説明できる』ことが大切になると思います。

今は、小児適応もありませんし、長期的に見た時の影響がまだわからない部分があるため、すぐに広く使われるというよりは、ほかの治療の進歩も見ながら考えていくことになるのではないかと思います。
治療は一つの方法だけに向かうのではなく、患者さんの年齢や生活、目的によって選択肢を考える時代になっていくのだと思います。
保因者の問題はとても大きいと考えています。血友病の治療そのものは進歩し、出血を非常に少なくすることを目指せるようになってきました。しかし、出産時などに血友病の家族歴が事前に十分把握されていないことで、赤ちゃんへのリスクが生じる可能性があります。
家族歴を丁寧に確認し、必要な人には遺伝に関する検査やカウンセリングにつなげることも大切です。ただ、遺伝については『できれば触れたくない』と感じるご家族もいます。だからこそ、遺伝の話を不安だけのものにせず、『知ることで守れることがある』という伝え方をしていきたいと思っています。
はい。女性でも出血症状に困っている方はいます。月経などで生活への負担が大きくても、『女性には血友病はいない。』という理解だけで見過ごされてしまうと、本人の生活の質を下げることにつながります。
血友病の男性患者だけを診るのではなく、家族の中にいる保因者や、出血に困っている女性にも適切に医療が届くようにすることは、これからの大切な課題だと思います。
治療が良くなった今だからこそ、一人ひとりが自分に合った病気との付き合い方を探してほしいと思います。同じ血友病でも、生活や大切にしたいことは人によって違います。自分だけで考え込まず、医師や看護師、心理師など周りの人と話すことで、入ってくる情報や解決できることがあります。
そして、新しい治療を勧められた時には、自分にとって何が良さそうのか、今の治療と何が違うのかを考えてみてください。医療者と相談しながら、薬を有効に使い、自分の生活に合った治療を選んでいく個別化治療が、これからますます大切になると思います。

血友病治療は、出血を抑えることから、生活や人生の選択肢を広げる治療へと進んできました。
小倉先生の言葉からは、治療の進歩を享受するためには、患者本人が病気と薬を理解し、医療者と一緒に選ぶ姿勢が重要であることが伝わります。同時に、保因者や女性を含め、家族全体を視野に入れた支援も、これからの血友病医療に欠かせないテーマです。
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