【血友病・小児医療】静岡県立こども病院 小倉妙美先生 インタビュー

【第二部】


子どもが自分の病気を説明できるように

自己注射・包括外来・自立を支える診療

写真:村山広和さん

血友病の治療が進歩し、子どもたちは病気を意識せずに過ごせる時間が増えています。

しかし、血友病は長く付き合っていく必要のある病気です。成人後に自分で医療を選び、医師と相談しながら治療を続けるためには、子どもの頃から少しずつ病気を理解し、自己管理の力を身につけることが欠かせません。

静岡県立こども病院の小倉妙美先生に、血友病の移行期支援と、成長段階に応じた患者教育について伺いました。

 

インタビュー目次

「怖がらない。でも知識は持っていてほしい」

Q.血友病の子どもが成長していく中で、どのようなことを大切にしていますか。

治療は大きく進歩しましたが、血友病という病気そのものがなくなったわけではありません。普段はほかの子どもたちと同じように生活できていても、大きなけがをした時など、改めて血友病を意識する場面はあります。

だから私は、病気を必要以上に怖がる必要はないけれど、正しい知識は持っていてほしいと思っています。自分はどんな病気なのか、出血した時にどうすればよいのか、どんな治療を受けているのか。さらに大人になれば、社会制度や会社、パートナーへの伝え方なども必要になります。こうしたことは一度に覚えられるものではありません。年齢に応じて、経験と知識を一つずつ積み重ねていくことが大切です。

小学生から「自分の言葉で血友病を説明する」練習

Q.静岡県立こども病院では、具体的にどのような支援をしていますか。

小学生2-3年生になると、まず一人で診察室に入ってもらうようにしています。患者さんに医療者と話すことに少しずつ慣れてもらうためです。そして、「血友病とはどんな病気か」を、血友病を知らない人に自分の言葉で説明できるようになることを目指します。

また、自分の体調や治療の記録を、子ども自身がノートに残す取り組みもしています。「この時に足が痛かった」「この日に注射をした」「注射をしたら良くなった」などと記録することで、自分の体と治療を自分ごととして振り返る練習になります。親御さんの記録とは別に、本人に自分のノートに記録をしてもらうことがポイントです。

Q.同じ病気の子ども同士で学ぶ機会もあるのでしょうか。

小学校4、5年生頃には、同世代の子どもたちを集めた集団教育の機会も設けています。血友病は患者数が多い病気ではないため、普段の生活や通院の中で、同じ病気の子どもと出会わないことが多いと思います。「自分だけが病気なのではないか」「なんでクラスの他の子は注射をしていないのか?」と感じてしまうこともあるでしょう。

そこで、夏休みや冬休みに、同世代の患者さんたちが一緒に血友病について楽しく学ぶ場をつくります。そこから自己注射の練習につなげていくこともあります。自己注射は単に注射が出来るようになることではありません。病気の仕組み、出血時の対応、運動で気をつけることなどを学びながら、看護師、心理士、医師が一緒になって支えていきます。

成人医療へ移るために必要なのは「知識の積み重ね」

Q.成人期が近づくと、支援の内容はどのように変わりますか。

年齢が上がるにつれて、必要になる知識も変わります。成人が近づけば、遺伝に関することを将来のパートナーや家族にどう伝えるか、成人になることで社会制度がどう変わるのか、といったことも話すようになります。大切なのは、必要になる少し前に、その年代に合った情報を伝えることです。

例えば、中学生にいきなり将来の結婚について詳しく説明しても、なかなか自分のこととして受け止められません。その時々の生活に合わせて、段階的に内容を変えていくことが必要です。

Q.なぜ、成人になる前からそこまで知識を身につける必要があるのでしょうか。

成人の医療機関では、これまで受けてきた治療について、ある程度は本人が理解していることを前提に診療が進むと思います。新しい薬を提案された時に、今の薬が何なのか、なぜ使っているのかがわからなければ、違いを考えることもできません。

医師と一緒に治療を選ぶためには、まず自分の病気や治療について一定の知識が必要です。『なぜ今までこの治療をしてきたのか』を本人が理解していることが、成人の医師と対話するための土台になります。

全員に同じ「理想」を求めない

Q.患者さんによって、病気への理解や自己管理には差がありますか。

とても差があります。自分から情報を集め、新しい治療が出た時に『自分に必要か』を考えられる人もいれば、医療者から言われた通りに治療を続ける人もいます。軽症の方や、日常的に製剤を使っていない方では、病気への意識が薄くなりやすいこともあります。

だからこそ、『ここまでできなければならない』と一つの理想像を押しつけるのではなく、最低限ここは知っておこう、というところから始めることが大切だと思います。自分は血友病AなのかBなのか、重症度はどのくらいなのか、といった基本的なところも含めて、一人ひとりに合わせて積み上げていくことが必要です。

まとめ

移行期支援は、診療科を小児科から成人科へ変えるだけではありません。自分の病気を理解し、医療者と話し、生活に合った治療を選ぶ力を少しずつ育てていくプロセスです。

静岡県立こども病院では、小学生の頃からの患者教育、集団教育、自己注射、成人期を見据えた情報提供を通じて、その準備を積み重ねています。次の記事では、専門病院と地域の医療機関の連携について、静岡県で行われている取り組みを伺いました。

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