【血友病・小児医療】静岡県立こども病院 小倉妙美先生 インタビュー

【第三部】


専門病院と地域の医療機関をつなぐ

静岡県で進む包括診療と患者会との連携

写真:村山広和さん

血友病は、専門医療機関だけで診療が完結する病気ではありません。日常の通院、製剤の処方、関節や歯のケア、成人後の診療など、生活する地域の医療機関との連携が欠かせません。

静岡県立こども病院では、地域の小児科・血液内科・整形外科などと顔の見える関係をつくり、患者さんを一人ずつ成人医療へつなぐ取り組みを続けてきました。

小倉妙美先生に、静岡県の血友病地域連携と患者会との関わりについて伺いました。

 

インタビュー目次

成人医療への移行で直面した「受け入れの壁」

Q.小児専門病院から成人医療へ移る際、どのような課題がありましたか。

静岡県立こども病院は小児専門病院なので、患者さんは成長すれば成人の医療機関へ移っていく必要があります。ところが、以前は血友病の成人患者さんを受け入れてもらうことが簡単ではありませんでした。

成人の血液内科の先生方は、がんをはじめ多くの患者さんを診ています。小児期から長く付き合い、小児科医との関係性が確立している血友病患者さんを新たに受け入れることに負担を感じることもありました。最初の頃は、同じ単位数、同じ製剤を処方するだけで、関節や生活全体まで十分に診てもらえないケースもありました。患者さんからも、『こども病院では整形外科や歯科まで診てもらえたのに』という声が出てきました。

Q.そこから、どのように連携をつくっていったのでしょうか。

不満を言うだけでは状況は変わりません。そこで、成人の先生方と直接会い、これから移行する患者さんについて一人ずつ情報共有するカンファレンスを始めました。どんな経過があり、どんな治療を受け、どの程度自分の病気を理解しているのか、母・姉妹への保因者の説明状況などを伝えた上で、数年間の併診を行いながら受け入れをお願いしていきました。

整形外科の先生方とも同じように関係をつくり、少しずつ協力していただけるようになりました。時間はかかりましたが、現在は地域の先生方が継続して診療し、必要な時には専門病院と相談できる体制が整ってきています。

年1回の包括外来で、地域での治療を支える

Q.地域の医療機関と静岡県立こども病院は、どのように役割分担していますか。

小児科は、地域の医療機関で日常の診療や製剤の処方を受けながら、年に1回、静岡県立こども病院の包括外来に来てもらうという形があります。包括外来では、歯科、整形外科、心理士、看護師など複数の職種が関わり、健康診断のように全体を見直します。

そこで気づいたことは、地域の先生にも患者さんにも手紙でお返しします。例えば、体格の変化に合わせて製剤量を見直した方がよいのではないか、関節の状態から治療変更を検討してはどうか、といったことを共有・提案し、最終的な治療方針は地域の主治医と患者さんで相談して決めてもらいます。

Q.こうした連携を続ける上で大切なことは何ですか。

一番大切なのは、医療者同士が顔を知っていることだと思います。以前は静岡県の東部・中部・西部に出向き、その地域で血友病を診てくださっている先生方と、実際の患者さんの治療方針について話し合う会を続けてきました。

直接会って話すことで、その後メールや電話で相談しやすい関係になります。今では『こういう患者さんをお願いできますか』と連絡すると、その後の治療について自然にやり取りできる関係ができています。特別なシステムだけでなく、患者さんの背景や成長を一緒に見て、医療者同士が対話を続けることが地域連携の土台だと思います。

患者会は、医療と生活をつなぐ大切な接点

Q.患者会とはどのように関わっていますか。

こども病院主催で年に1回患者さん向けの情報提供を行っていて、こども病院の取り組みや新しい治療について共有する機会があります。また、患者会主催の総会にも参加し、生活上の悩みや治療・家族の相談(保因者相談)などを伺っています。患者会の代表の方とは連絡を取り合い、会の中で出てきた疑問について相談を受けることもあります。

一方で、治療について個別に相談を受けた時には、主治医との関係をとても大切にしています。私の考えを伝えることはあっても、『この薬に変えるべき』と主治医を飛び越えて決めることはしません。必要であれば、相談を受け、私が伝えた内容を主治医にも共有し、その先生と患者さんが話し合えるようにします。

Q.なぜ主治医との関係をそこまで重視するのでしょうか。

日常を継続して診てくださっている主治医は、患者さんにとって大切な存在です。専門病院だけが答えを出すのではなく、地域の先生と患者さんがきちんとコミュニケーションを取れることが大切です。

専門病院が何でも引き受けてしまうと、患者さんが自分で主治医に相談する力を育てる機会を失うことにもなります。必要な時には支える。でも、日常の診療は地域の先生と患者さんが一緒に進めていく。そうした関係をつくることが、長く安心して暮らすための医療につながると考えています。

まとめ

血友病の地域医療では、専門病院がすべてを抱えるのではなく、地域の主治医と役割を分けながら、必要な時に専門的な支援へ戻れる仕組みが重要です。静岡県では、長年の対話とカンファレンスを通じて医療者同士の「顔の見える関係」を築き、包括外来や患者会との接点を生かしながら、患者さんの生活を地域全体で支える体制がつくられてきました。

次の記事では、血友病の治療選択肢が増えていく中で、患者さんの生活にはどのような変化があり、どのように治療選択を考えていくといいのか、小倉先生のお考えを伺いました。

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